誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫|【獣医師国家試験対策】

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麻酔から覚めたあと、手術の翌日、けいれん発作のあと。こうした場面で急に呼吸が悪くなった犬の症例問題では、誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫の見分けが問われます。どちらも急な呼吸困難とX線の白い影を示しますが、できる仕組みがまったく違うため、影の出る場所と血液検査の所見が異なります。

本記事では、「何が肺に入ったのか(胃の内容物か、血管から漏れた水か)」という一点から、両者と神経原性肺水腫を整理します。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。

  • 場面設定:麻酔後や去勢手術の翌日、巨大食道症、けいれん発作のあとに急に起こる呼吸の悪化
  • 画像と検査:X線像の浸潤影(右中葉・前葉など)や好中球の増加から誤嚥性肺炎を判断させる問題
  • 鑑別:激しい吸気努力で起こる陰圧性肺水腫との見分け
この記事で押さえること
  • 誤嚥が起こりやすい状況と基礎疾患
  • 誤嚥性肺炎が腹側の肺葉(犬では右中葉など)に出る理由
  • 閉じた気道で強く吸うと肺に水が引き出される陰圧性肺水腫の仕組み
  • てんかん発作や頭部外傷で起こる神経原性肺水腫
  • 3つを誘因・影の分布・発熱と好中球・心拡大で見分けること

1. 急な呼吸の悪化で考える3つの病態

  • 誤嚥性肺炎:胃の内容物や食物、唾液が気道に入って起こる肺炎。肺に入ったのは「外からのもの」
  • 陰圧性肺水腫:上部気道がふさがった状態で強く吸うことで起こる肺水腫。肺に入ったのは「血管から漏れた水」
  • 神経原性肺水腫:てんかん発作や頭部外傷などのあとに起こる肺水腫。これも血管から漏れた水

麻酔や手術のあとなら、麻酔中の嘔吐・逆流による誤嚥性肺炎と、抜管後の喉頭のけいれんによる陰圧性肺水腫の両方が候補になります。けいれん発作のあとなら、発作中の誤嚥と神経原性肺水腫の両方が候補です。場面だけでは決まらないことが、この組み合わせが出題される理由です。

2. 誤嚥性肺炎

2-1. 誤嚥が起こりやすい状況

  • 巨大食道症:食道にたまった食物が逆流して気道に入る
  • 喉頭の機能の低下:喉頭麻痺など、飲み込むときに気道を閉じられない
  • 意識や反射の低下:麻酔中・麻酔からの覚醒時、けいれん発作中
  • 嘔吐:嘔吐物を吸い込む
  • 無理な給餌:強制給餌や、子牛・子犬への哺乳のしかた

2-2. 病態

胃酸を含む内容物が入ると、まず酸による化学的な肺の傷害が起こり、そこに口や胃から持ち込まれた細菌の感染が加わって肺炎になります。

2-3. 腹側の肺葉に出る理由

吸い込まれたものは重力に従って低い位置の肺葉へ流れ込みます。犬では伏せたり立ったりした姿勢で腹側にあたる肺葉、とくに右中葉が最も多く、ついで前葉に起こります。右主気管支のほうが気管からまっすぐ続いていることも、右側に多い理由です。

2-4. 所見

  • X線:腹側の肺葉(右中葉、前葉)の肺胞パターン。エアブロンコグラムがみられる
  • 全身所見:発熱
  • 血液検査:好中球の増加と核の左方移動。感染による炎症を示す
  • 気管洗浄液:好中球と細菌がみられる

3. 陰圧性肺水腫

3-1. 原因

上部気道がふさがった状態で、動物が強く息を吸おうとすることで起こります。

  • 麻酔から覚めて気管チューブを抜いたあとの喉頭のけいれん
  • 短頭種気道症候群や喉頭麻痺による上部気道の閉塞
  • 異物による窒息、首輪やリードによる首の締め付け

3-2. 仕組み

閉じた気道で強く吸うと、空気が入ってこないまま胸が広げられ、胸腔の中がきわめて大きな陰圧になります。この陰圧で肺の毛細血管から肺胞へ水分が引き出され、さらに強い圧力の差で毛細血管の壁も傷んで水が漏れやすくなります。心臓に異常がないのに起こる、非心原性肺水腫のひとつです。

3-3. 所見

  • 発症の時期:気道の閉塞の直後から数時間以内
  • X線:後背側(尾背側)の肺野を中心とした間質〜肺胞パターン。心拡大はない
  • 全身所見と血液検査:感染ではないため、発熱や好中球の増加は目立たない
  • 経過:気道の閉塞が解除されれば、比較的早く改善することが多い

4. 神経原性肺水腫

てんかん発作、頭部外傷、感電などのあとに起こる非心原性肺水腫です。脳への強い刺激で交感神経が一気に興奮し、全身の血管が収縮して血液が肺へ押し寄せ、肺の毛細血管の圧力が急に上がります。同時に血管の透過性も高まり、水が漏れ出します。陰圧性肺水腫と同じく、後背側に出やすく、心拡大を伴いません。

5. 3つの見分け方

  • 誘因:誤嚥性肺炎は嘔吐・逆流・巨大食道症・意識の低下。陰圧性肺水腫は上部気道の閉塞。神経原性肺水腫はけいれん発作・頭部外傷・感電
  • X線の分布:誤嚥性肺炎は腹側の肺葉(右中葉・前葉)。陰圧性と神経原性の肺水腫は後背側
  • 発熱と好中球:誤嚥性肺炎ではあり(感染)。肺水腫では目立たない
  • 心拡大:3つともなし。心拡大と肺門部中心の肺水腫があれば、心原性肺水腫を考える(循環器疾患の分野別まとめ)
両方が重なることもある

けいれん発作のあとに神経原性肺水腫と誤嚥性肺炎が、短頭種の麻酔後に陰圧性肺水腫と誤嚥性肺炎が、同時に起こることもあります。症例問題では、影の分布と発熱・好中球の有無という客観的な所見から、主な病態を選ぶ形で問われます。

6. 誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫で国家試験に狙われるポイント

  • 誤嚥性肺炎の誘因:巨大食道症、喉頭麻痺、麻酔、けいれん、嘔吐、無理な給餌
  • 誤嚥性肺炎の分布:重力に従い腹側の肺葉。犬では右中葉が最多、ついで前葉
  • 誤嚥性肺炎の検査:発熱、好中球の増加と左方移動、気管洗浄液の好中球と細菌
  • 陰圧性肺水腫:上部気道の閉塞下での強い吸気 → 胸腔内の大きな陰圧 → 肺に水が引き出される。後背側、心拡大なし、感染所見なし
  • 神経原性肺水腫:けいれん発作・頭部外傷・感電 → 交感神経の興奮 → 肺の毛細血管圧の上昇と透過性の亢進
  • 非心原性肺水腫の原因:上部気道の閉塞、てんかん発作、頭部外傷、急性膵炎、感電

7. 誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫の確認問題

Q1. 犬の誤嚥性肺炎が右中葉に多い理由を2つ述べよ。

A. 吸い込まれたものが重力に従って低い位置の肺葉へ流れ込み、右中葉は伏せた姿勢や立った姿勢で腹側にあたるため。また右主気管支が気管からまっすぐ続いており、吸い込まれたものが右側へ入りやすいため。

Q2. 陰圧性肺水腫が起こる仕組みを述べよ。

A. 上部気道がふさがった状態で強く吸気すると、空気が入らないまま胸が広げられて胸腔内がきわめて大きな陰圧になる。その陰圧で肺の毛細血管から肺胞へ水分が引き出され、毛細血管の壁も傷んで水が漏れやすくなるため、肺水腫が起こる。

Q3. 去勢手術の翌日に呼吸困難を示した犬で、誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫を見分けるのに役立つ所見を挙げよ。

A. X線での影の分布(誤嚥性肺炎は腹側の肺葉、陰圧性肺水腫は後背側)と、発熱や好中球の増加・左方移動の有無(誤嚥性肺炎では感染所見がある)。

Q4. 非心原性肺水腫の原因を4つ挙げよ。

A. 上部気道の閉塞(陰圧性肺水腫)、てんかん発作、頭部外傷、急性膵炎、感電などから4つ。

Q5. てんかん発作のあとに起こる神経原性肺水腫の仕組みを述べよ。

A. 脳への強い刺激で交感神経が一気に興奮し、全身の血管が収縮して血液が肺へ移動するため、肺の毛細血管の圧力が急に上がる。同時に血管の透過性も高まり、水分が肺胞へ漏れ出す。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。