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呼吸器疾患は、「どんな音で、どう息をしているか」から、悪い場所を当てる分野です。「ガーガーという咳」「いびき」「運動時の喘鳴」といった主訴と、X線・CT・内視鏡の画像を直結させる問題が数多く出題されています。
本ページでは、呼吸の音と様式から病変の部位(上部気道・下部気道・胸腔・肺実質)を絞り込む考え方を軸に、解剖と生理、呼吸器に作用する薬の作用機序、画像の読み方を整理し、重要テーマの詳細へ案内します。
呼吸器は、解剖学・生理学、小動物の内科・外科・画像診断、大動物臨床、病理学・感染症学にまたがって出題されます。とくに実地試験の画像問題では、呼吸困難・咳・喘鳴を主訴とする症例が毎回多数含まれます。
本ページの出題傾向は、過去の獣医師国家試験を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 呼吸器疾患の出題傾向(試験区分別)
- 必須問題:呼吸の調節(呼吸中枢、化学受容器、ヘーリング-ブロイエル反射)や、代表的疾患の基本知識を一問一答で問う形式
- 学説試験A:気管と喉頭の解剖、反回神経の走行、呼吸の生理、肺胞上皮の構造
- 学説試験B:気管支拡張薬や糖質コルチコイドの作用、呼吸器感染症の病原体と病変、非心原性肺水腫の原因
- 実地試験C・D:X線・CT・内視鏡・病理組織の画像を含む症例問題。犬の気管虚脱、短頭種気道症候群、誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫、馬の喘鳴症、子馬のロドコッカス肺炎が繰り返し出題されています
注目すべきは、主訴の「音」と画像がセットで問われることです。「アヒルの鳴き声のような咳」を聞いたら頸部と胸部の気管を、「運動時の吸気性の喘鳴」を聞いたら喉頭を思い浮かべられる状態を目指してください。
2. 呼吸の音と様式で「どこが悪いか」を当てる
呼吸器の症例問題は、まず病変が4つの部位のどこにあるかを絞り込むと、選択肢が一気に減ります。
- 上部気道(鼻・咽頭・喉頭・頸部気管):吸気時に苦しそうになり、いびき様の音や、高い喘鳴(ヒューヒュー)が聴こえる。代表疾患は短頭種気道症候群、喉頭麻痺、馬の喘鳴症、頸部の気管虚脱
- 下部気道(胸腔内の気管・気管支):呼気時に腹を使って押し出すように呼吸し、咳が目立つ。代表疾患は胸腔内の気管虚脱、猫喘息、慢性気管支炎
- 胸腔(胸膜腔・縦隔・横隔膜):肺が広がれないため、浅く速い呼吸になり、呼吸音が弱くなる。代表疾患は胸水、気胸、横隔膜ヘルニア、縦隔の腫瘤
- 肺実質(肺胞・間質):酸素を取り込めず、呼吸数が増え、湿った音(クラックル)が聴こえることがある。代表疾患は肺炎、肺水腫
上部気道の閉塞で吸気時に苦しくなるのは、息を吸うと気道の中が陰圧になり、やわらかい組織が内側へ引き込まれるからです。この「吸気の陰圧」は、気管虚脱の時相、短頭種の二次的な変化、陰圧性肺水腫の成り立ちまで、呼吸器のあちこちで出てきます。
3. 学説A対策 — 解剖と生理
3-1. 気管の構造
気管はC字形の硝子軟骨が連なってできており、C字の開いた背側は膜性壁(気管筋と結合組織)で閉じられています。軟骨が柔らかくなって平たくなり、膜性壁がゆるんで内腔へ垂れ込むのが気管虚脱です。
3-2. 喉頭と反回神経
声門を開く筋(輪状披裂背筋)は、迷走神経の枝である反回神経の支配を受けます。左の反回神経は大動脈弓を回って喉頭へ戻るため、右(鎖骨下動脈を回る)より長くなります。この長さの違いから、次の2つが説明できます。
- 犬:動脈管開存症の手術で動脈管の近くを操作すると、そばを走る左反回神経を傷つけ、術後に喉頭麻痺を起こすことがある
- 馬:長い神経ほど末端から変性しやすく、喘鳴症(喉頭片麻痺)の多くが左側に起こる
3-3. 呼吸の調節
- 呼吸中枢:延髄が呼吸のリズムをつくり、橋がそのリズムを調節する
- 中枢化学受容器:延髄にあり、脳脊髄液のH⁺の変化を通じて動脈血のCO₂分圧(PaCO₂)の上昇を感じ取る。ふだんの呼吸の調節の主役
- 末梢化学受容器:頸動脈小体と大動脈小体にあり、主に動脈血のO₂分圧(PaO₂)の低下を感じ取る
- ヘーリング-ブロイエル反射:肺が膨らむと気管支や肺の伸展受容器が刺激され、迷走神経を通じて吸息が止められる
3-4. 肺胞とガス交換
肺胞の壁は、ガス交換を担う薄いI型肺胞上皮細胞と、表面活性物質(サーファクタント)をつくるII型肺胞上皮細胞からなります。I型が傷つくと、II型が増えて傷んだ面を覆います。犬ジステンパーの間質性肺炎でII型肺胞上皮の増生(立方上皮化)がみられるのはこのためです。
3-5. 肺水腫の成り立ち — 心原性と非心原性
- 心原性肺水腫:左心不全で肺静脈の圧(静水圧)が上がり、水が押し出される(循環器疾患の分野別まとめ)
- 非心原性肺水腫:心臓は正常なのに起こる。上部気道の閉塞(陰圧性肺水腫)、てんかん発作や頭部外傷(神経原性肺水腫)、急性膵炎などの全身性炎症、感電が代表的な原因
4. 学説B対策 — 呼吸器に作用する薬の作用機序
本ページでは作用機序までを扱い、用量や薬の選び方は扱いません。
- β2受容体作動薬(サルブタモールなど):気管支平滑筋のβ2受容体を刺激してcAMPを増やし、気管支を広げる
- β遮断薬に注意する理由:非選択的なβ遮断薬はβ2受容体も遮断するため、気管支を収縮させる。気管支が狭くなりやすい猫喘息などで問題になる。「β1は心臓、β2は肺」の覚え方は語呂合わせ・覚え方まとめで確認できる
- 糖質コルチコイド:気道の炎症(猫喘息の好酸球性炎症など)を抑え、気道の過敏性を下げる
- マクロライド系抗菌薬:細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を止める。細胞の中や膿瘍の中によく移行する
- リファンピシン:細菌のRNAポリメラーゼを阻害する。脂溶性が高く、細胞内や膿瘍に届きやすい。マクロライドと組み合わせるのは、耐性菌の出現を抑えるため
5. 実地C・D対策 — 画像の横断整理
5-1. X線の肺パターンと分布
- 肺胞パターン:肺胞が液や細胞で満たされて白くなり、空気の残った気管支が黒い線として浮かぶ(エアブロンコグラム)。肺炎、肺水腫
- 間質パターン:肺全体がすりガラスのように白っぽくなる。初期の肺水腫、間質性肺炎
- 気管支パターン:気管支の壁が厚くなり、ドーナツ状や線路状に見える。猫喘息、慢性気管支炎
- 分布から原因を読む:腹側の肺葉(犬では右中葉など)なら誤嚥性肺炎、後背側なら陰圧性肺水腫などの非心原性肺水腫、犬の肺門部中心なら心原性肺水腫
5-2. 胸腔
- 胸水:肺葉のあいだに液が入り込んで葉間裂が線として見え、心陰影と横隔膜の輪郭がぼやける。肺葉が胸壁から離れる
- 気胸:側面像で心臓が胸骨から浮いて見え、肺の血管影が胸壁まで届かない
- 縦隔気腫:気管の外壁や大血管、食道など、ふだんは見えない縦隔の構造の輪郭が見える。食道穿孔などで起こる
- 縦隔の腫瘤:心陰影の頭側が白くなり、気管が背側へ押し上げられる。若い猫の縦隔リンパ腫が代表で、胸水を伴うことが多い
- 横隔膜ヘルニア:横隔膜の輪郭が途切れ、胸腔の中に胃や腸のガス像が見える。高所からの落下や交通事故のあとに多い
- 肺葉捻転:胸水とともに、ねじれた肺葉が白く、気管支の走行が不自然になる。パグなどの小型犬では左前葉、大型犬では右中葉に多い
5-3. 気管
気管虚脱では、頸部の気管は吸気時に、胸腔内の気管は呼気時につぶれます。そのため、吸気時と呼気時の側面像を撮って比べます(犬の気管虚脱の詳細解説)。短頭種では、胸郭入口の大きさに比べて気管が細い気管低形成がみられます。
5-4. 内視鏡
- 喉頭麻痺・喘鳴症:吸気時に披裂軟骨が外側へ開かない。馬では左右差(左の動きの低下)を見る
- 短頭種気道症候群:軟口蓋が喉頭蓋を越えて垂れ下がり、喉頭小嚢が外反して声門をふさぐ
5-5. 麻酔中の気道トラブル
気管チューブを誤って食道に挿管すると、肺に酸素が送られずSpO₂が下がります。カプノグラフで呼気の二酸化炭素がほとんど検出されないことで、すぐに気づくことができます。
6. 重要テーマ別の詳細解説
実地試験で繰り返し出題されている疾患を中心に整理しました。
犬気管虚脱
中高齢の小型犬に多く、アヒルの鳴き声のような乾いた咳が特徴です。気管軟骨の軟化と膜性壁のゆるみで気管がつぶれ、頸部は吸気時、胸腔内は呼気時に狭くなる理由を、気道内圧から解説します。
犬短頭種気道症候群
パグやフレンチ・ブルドッグなどで、いびき・チアノーゼ・熱中症を起こしやすい病態です。外鼻孔狭窄・軟口蓋過長などの生まれつきの異常が、吸気の陰圧で喉頭小嚢の外反や喉頭虚脱を二次的に引き起こす流れを解説します。
犬誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫
麻酔後や手術の翌日、けいれん発作のあとに急に呼吸が悪化する症例で、両者の見分けが問われます。腹側の肺葉か後背側か、感染があるかないかという違いを、発生の仕組みから整理します。
犬喉頭麻痺
吸気時の喘鳴を主徴とし、声門を開く筋を支配する反回神経の障害で起こります。中高齢の大型犬の後天性のもののほか、動脈管の手術で左反回神経を傷つけて起こる術後の喉頭麻痺も出題されています。馬の喘鳴症の記事で、犬との比較として扱っています。
猫猫喘息・慢性気管支炎
好酸球性の気道炎症で気管支が狭くなり、呼気時の努力呼吸と咳がみられます。X線では気管支パターンと肺の過膨張が特徴です。β2作動薬と糖質コルチコイドの作用、β遮断薬に注意する理由が問われます。猫の咳は、心不全より先に喘息を考えます(猫の肥大型心筋症の解説)。
犬・猫胸水・気胸・縦隔疾患、肺葉捻転、横隔膜ヘルニア
いずれも胸腔の病変で、浅く速い呼吸を示します。第5章の画像所見で見分けてください。
犬肥大性骨関節症(マリー病)
肺の腫瘍など胸腔内の病変が原因となって、四肢の骨に左右対称性の骨膜性の骨増生が起こる病態です。四肢の腫れや跛行で来院し、胸部X線で原因の病変が見つかるという流れで問われます。
馬喘鳴症(喉頭片麻痺)
運動時の吸気性の異常呼吸音とパフォーマンスの低下が特徴で、左反回神経の変性で左の披裂軟骨が開かなくなります。内視鏡での見え方と、左側に多い理由を解説します。
馬子馬のロドコッカス肺炎
生後1〜6か月の子馬に起こる、化膿性肉芽腫性の肺炎です。マクロファージの中で生き延びる菌の性質から、病変の特徴、気管洗浄液の検査、マクロライドとリファンピシンが使われる理由までを解説します。
牛牛呼吸器病症候群とマイコプラズマ
輸送や密飼いなどのストレスに、ウイルスと細菌の感染が重なって起こる肺炎の総称です。Mycoplasma bovisは乾酪壊死を伴う気管支肺炎のほか、中耳炎や関節炎を起こします。肺の大理石様の外観は、牛肺疫(Mycoplasma mycoides)やマンヘミアによる線維素性胸膜肺炎の特徴として区別してください。
牛子牛の気管狭窄 — 分娩時のトラブル
実地試験では、3週齢の子牛が1週間前から呼吸促迫、喘鳴、運動時の咳を示し、頸胸部のX線側面像から気管の狭窄と肋骨の骨折を読み取らせたうえで、その原因を問う連問が出題されています。
難産のときに無理な力で子牛を牽引すると、胸郭が強く圧迫されて前方の肋骨が折れます。骨折が治る過程でできた仮骨が胸郭の入口で気管を圧迫し、生後数週で気管の狭窄による症状が現れます。原因は不適切な分娩介助です。臍帯からの感染(肺膿瘍や関節炎の原因になる)や、乳の誤嚥による肺炎も子牛に多い病態ですが、「肋骨の骨折と気管の狭窄」という画像所見を結びつけられるのは分娩時の外傷だけです。
豚・鶏豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、鶏伝染性喉頭気管炎(ILT)
PRRSは、母豚の流産や死産などの繁殖障害と、子豚の間質性肺炎を起こすウイルス病です。肺胞マクロファージで増えるため免疫の働きが落ち、二次感染を招きます。ILTはヘルペスウイルスによる鶏の病気で、血の混じった痰の喀出、気管粘膜の出血と偽膜、気管上皮の合胞体と核内封入体が特徴です。いずれも届出伝染病で、法令上の位置づけは家畜伝染病予防法と届出伝染病の解説で確認できます。
7. 学習教材
理解度チェック
- ふつう:フローチャート — 薬理学フローチャート。サルブタモールなどの気管支拡張薬を、系統・受容体・作用の順にたどれます
- むずかしい:推理ラボ — 比較解剖推理ラボ。肺葉などの解剖所見から動物種を見分けます
関連する記事・教材
- 超簡単まとめ:自律神経系 — β2受容体と気管支拡張のしくみを図解で確認できます
- 分野別まとめ:循環器疾患 — 心原性肺水腫と胸水を、心臓の側から整理しています
- 法定伝染病かるた — 牛肺疫などの呼吸器の伝染病を、法令上の区分とあわせて覚えられます
- 語呂合わせ・覚え方まとめ — 「β1は心臓、β2は肺」など、他分野の覚え方もまとめています
8. 呼吸器疾患の勉強法 ― おすすめの学習順序
- 部位の当て方:本ページ第2章で、呼吸の音と様式から4つの部位を絞り込む考え方をつかむ
- 解剖と生理:第3章で、気管の構造と反回神経の走行を押さえる。気管虚脱と喉頭の病気の土台になる
- 画像の型:第5章で、肺パターンの分布と胸腔の所見を覚える
- 超頻出テーマ:第6章の5本の詳細記事を、小動物(気管虚脱 → 短頭種 → 誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫) → 馬(喘鳴症 → ロドコッカス肺炎)の順に読む
- 横断確認:第4章の薬理と、第6章の産業動物の感染症で仕上げる
呼吸器は内科学を構成する領域のひとつです。ほかの領域を含めた内科学全体の出題傾向は、臨床獣医学 > 内科のページで整理しています。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 家畜比較解剖図説 養賢堂
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)