応用獣医学 > 獣医事法規 > 感染症に関わる法規
動物から人にうつる感染症を防ぐため、獣医師には、特定の感染症を診断したときに届け出る義務があります。国家試験では、狂犬病予防法の対象動物、感染症法で獣医師が届け出る感染症と動物の組み合わせが、必須問題で繰り返し出題されています。
本記事では、「どの法律で、どの動物の、どの感染症を、どこへ届け出るか」を軸に、狂犬病予防法と感染症法を整理しました。家畜の伝染病は家畜伝染病予防法と届出伝染病の解説で扱っています。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 狂犬病予防法:対象動物(あらいぐまは対象、たぬきは対象外)
- 感染症法:獣医師の届出の対象(犬のエキノコックス症、サルの細菌性赤痢、ペストなど)
- 狂犬病予防法の対象動物(犬と、猫・あらいぐま・きつね・スカンク)
- 犬の登録(生涯1回)と予防注射(毎年1回)、鑑札と注射済票
- 狂犬病を診断した獣医師の保健所長への届出
- 感染症法で獣医師が届け出る感染症と動物の組み合わせ
- 感染症法で輸入が禁止されている動物
1. 狂犬病予防法(厚生労働省)
狂犬病の発生を予防し、まん延を防ぎ、撲滅することで、公衆衛生の向上を図る法律です。人を守るための法律なので、所管は厚生労働省です(輸出入の検疫は農林水産省の動物検疫所が行います)。
1-1. 対象動物
- 犬:登録、予防注射、鑑札など、すべての規定の対象
- 猫、あらいぐま、きつね、スカンク:政令で定められ、狂犬病にかかったときの届出や隔離、輸出入の検疫などの規定が適用される
狂犬病予防法の対象動物は、犬と、猫・あらいぐま・きつね・スカンクです。たぬきやフェレットは含まれません。どの動物が含まれるかが繰り返し問われています。
1-2. 犬の登録と予防注射
- 登録:犬の所有者は、犬を取得した日(生後90日以内の犬は、生後90日を経過した日)から30日以内に、市町村長に登録を申請する。登録は生涯1回で、鑑札が交付される
- 予防注射:生後91日以上の犬に、毎年1回(原則として4月1日から6月30日まで)受けさせる。注射済票が交付される
- 装着:鑑札と注射済票は、犬につけておかなければならない
登録や予防注射を受けていない犬は、抑留の対象になります。
1-3. 獣医師の届出
狂犬病にかかった犬など(疑いのあるものを含む)を診断または検案した獣医師は、直ちに保健所長に届け出なければなりません。狂犬病にかかった犬などは隔離されます。
2. 感染症法(厚生労働省)
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、人の感染症の予防とまん延の防止を目的とする法律です。感染症を一類から五類などに分類し、それぞれに対策を定めています。
2-1. 獣医師の届出(13条)
獣医師は、政令で定める感染症に、定められた動物がかかっている(疑いを含む)と診断したときは、直ちに、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければなりません。自然に感染した場合だけでなく、実験で感染させた場合も届出の対象です。
- サル:エボラ出血熱、マールブルグ病、細菌性赤痢、結核
- プレーリードッグ:ペスト
- イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン:重症急性呼吸器症候群(SARS)
- ヒトコブラクダ:中東呼吸器症候群(MERS)
- 鳥類:鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)、ウエストナイル熱
- 犬:エキノコックス症
届出の対象は、その感染症を人に感染させるおそれが高い動物に限られています。たとえばエキノコックス症は、人に虫卵をうつす終宿主の犬が対象です。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、猫や犬から人への感染例がありますが、獣医師の届出の対象にはなっていません。
2-2. 輸入が禁止されている動物
人に重い感染症をうつすおそれのある、次の動物は原則として輸入が禁止されています。
- イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン(SARS)
- コウモリ(狂犬病などのウイルス)
- ヤワゲネズミ(ラッサ熱)
- プレーリードッグ(ペスト)
サルは、試験研究や展示の目的に限って、指定された地域から、検疫を経て輸入できます。
3. 3つの法律の届出の比較
- 家畜伝染病予防法:家畜伝染病・届出伝染病を診断した獣医師 → 都道府県知事(家畜保健衛生所)
- 狂犬病予防法:狂犬病の犬などを診断・検案した獣医師 → 保健所長
- 感染症法:定められた感染症の動物を診断した獣医師 → 保健所長を経由して都道府県知事
家畜の病気を防ぐ法律は家畜保健衛生所、人の健康を守る法律は保健所が窓口です。
4. 感染症の法規で国家試験に狙われるポイント
- 狂犬病予防法:厚生労働省。対象は犬と、猫・あらいぐま・きつね・スカンク(たぬきは対象外)
- 登録:取得から30日以内に市町村長へ、生涯1回、鑑札
- 予防注射:生後91日以上、毎年1回、注射済票。鑑札と注射済票は犬につける
- 狂犬病の届出:診断・検案した獣医師が直ちに保健所長へ
- 感染症法の届出:サル(エボラ出血熱・マールブルグ病・細菌性赤痢・結核)、プレーリードッグ(ペスト)、イタチアナグマ・タヌキ・ハクビシン(SARS)、ヒトコブラクダ(MERS)、鳥類(鳥インフルエンザ・ウエストナイル熱)、犬(エキノコックス症)
- 輸入禁止:イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン、コウモリ、ヤワゲネズミ、プレーリードッグ
5. 感染症の法規の確認問題
Q1. 狂犬病予防法の対象動物をすべて挙げよ。
A. 犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンク。犬には登録や予防注射などのすべての規定が、ほかの動物には狂犬病にかかったときの届出や隔離などの規定が適用される。
Q2. 犬の登録と予防注射について、回数と交付されるものを答えよ。
A. 登録は生涯1回で鑑札が、予防注射は毎年1回で注射済票が交付される。どちらも犬につけておかなければならない。
Q3. 感染症法に基づき、犬を診断した獣医師が届け出なければならない感染症は何か。
A. エキノコックス症。犬は人に虫卵をうつす終宿主であるため、届出の対象となっている。
Q4. 感染症法で、サルが届出の対象動物となっている感染症を挙げよ。
A. エボラ出血熱、マールブルグ病、細菌性赤痢、結核。
Q5. 狂犬病の疑いのある犬を診断した獣医師の届出先と、感染症法の届出先の違いを述べよ。
A. 狂犬病予防法では直ちに保健所長に届け出る。感染症法では直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。
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理解度チェック
- 法定伝染病かるた — 家畜伝染病と届出伝染病の区分を覚えられます。
- 問題集:必須(法規) — 必須問題の形式で、法規の知識を確認できます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:獣医事法規 — 法律を「誰を、何のために規制するか」で整理し、所管と事例問題をまとめています。
- 流れでたどる:狂犬病ウイルスの旅 — かみ傷から脳、そして次の動物へ、狂犬病ウイルスの旅を図で確認できます。
- 家畜伝染病予防法と届出伝染病 — 家畜の伝染病の届出と防疫措置を扱います。
- 狂犬病 — 狂犬病の病原体と病態を扱います。
- 人獣共通寄生虫 — エキノコックスなど、人にうつる寄生虫を扱います。