椎間板ヘルニアと進行性脊髄軟化症|【獣医師国家試験対策】

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椎間板ヘルニアは、犬の脊髄疾患のなかで最も多く、国家試験でも毎年のように出題されます。問われるのは、ハンセンI型とII型の違い、MRIでの診断、そして重い脊髄損傷のあとに起こる進行性脊髄軟化症の経過です。

本記事では、椎間板の構造から始めて、「どんな犬で、どんな飛び出し方をして、脊髄にどれだけの傷を負わせるか」という流れで整理しました。局在の判定のしかたは脊髄の病変局在の解説とあわせて読んでください。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。

  • 病態:ハンセンI型とII型の違い
  • 画像:MRI像からの確定診断
  • 病理と経過:急に悪化して死に至る進行性脊髄軟化症(弛緩性麻痺が頭側へ広がる)の病理と症状
この記事で押さえること
  • 椎間板の髄核と線維輪、背側へ飛び出しやすい理由
  • ハンセンI型(押し出し)とII型(膨隆)の犬種・年齢・経過の違い
  • 胸腰部に多く、胸部の中ほどには少ない理由
  • 重症度の分類と、深部痛覚の意味
  • MRIで見える変性した椎間板と脊髄の変化
  • 進行性脊髄軟化症で、麻痺が頭側へ広がり死に至る経過

1. 椎間板の構造

椎間板は、中心のゼリー状の髄核と、それを取り巻く線維の層の線維輪からできています。線維輪は背側(脊柱管の側)が腹側より薄いため、椎間板の中身は脊髄のある背側へ飛び出しやすくなっています。

2. ハンセンI型とII型

2-1. ハンセンI型(押し出し)

  • 犬種:ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、ビーグル、シー・ズー、ペキニーズなどの軟骨異栄養性犬種
  • 変性:若いうちから髄核が軟骨のように変わり(軟骨様化生)、水分を失って石灰化する
  • 起こり方:弾力を失った髄核が、線維輪の断裂部から一気に脊柱管へ押し出される
  • 経過:3〜7歳ごろに急性に発症し、脊髄に強い衝撃(打撲)と圧迫を与える

2-2. ハンセンII型(膨隆)

  • 犬種:非軟骨異栄養性の中高齢の大型犬に多い
  • 変性:線維輪が加齢とともに線維性に変性する
  • 起こり方:線維輪そのものがゆっくり背側へ膨らみ、脊髄を圧迫する
  • 経過:慢性で進行性。症状は少しずつ強くなる
「中身が飛び出す」か「壁が膨らむ」か

I型は髄核(中身)が線維輪を破って飛び出すので急性、II型は線維輪(壁)がゆっくり膨らむので慢性です。犬種と経過の違いは、この一点から導けます。

3. 好発部位 — 胸腰部に多く、胸部の中ほどに少ない理由

犬の椎間板ヘルニアは胸腰椎移行部(T12–L1付近)に最も多く、次いで頸部(C2–C3付近)に起こります。一方、T1〜T10付近の胸部の中ほどではまれです。この部位では、左右の肋骨頭をつなぐ肋骨頭間靱帯が椎間板の背側を横切って補強しているためです。胸腰椎移行部は、動きの少ない胸椎と動きの大きい腰椎の境目で、負担が集中します。

4. 症状と重症度

胸腰部の椎間板ヘルニアでは、局在はT3–L3(前肢は正常、後肢はUMN徴候)になるのが典型です。背中を丸める、抱き上げると鳴く、といった痛みから始まり、重くなるにつれて後肢の麻痺が進みます。重症度は次のように分けます。

  • グレード1:痛みのみ。神経の異常はない
  • グレード2:歩ける程度の不全麻痺、運動失調
  • グレード3:歩けない不全麻痺
  • グレード4:麻痺(随意運動なし)。深部痛覚はある
  • グレード5:麻痺に加えて深部痛覚が消失

深部痛覚は、脊髄の圧迫に最も強い感覚です。これが消えたグレード5は、脊髄が最も重い傷を負った状態で、回復の見込みが大きく下がり、第6章の進行性脊髄軟化症の危険もある段階です。

5. 画像診断

  • 単純X線:椎間腔の狭小化、石灰化した椎間板、椎間孔の不透過性の亢進がみられることがある。ただし脊髄の圧迫そのものは写らないため、確定には使えない
  • 脊髄造影・CT:脊柱管の中の圧迫の位置と広がりを確認できる
  • MRI:確定診断の中心。T2強調像で、正常な髄核は水分が多く高信号だが、変性した椎間板は水分を失って低信号になる。脊柱管に飛び出した椎間板の物質と脊髄の圧迫が確認でき、脊髄内のT2高信号は浮腫や軟化など脊髄そのものの傷を示す

6. 進行性脊髄軟化症

6-1. どんなときに起こるか

急性で重い脊髄損傷、とくにハンセンI型で深部痛覚が消失した犬に起こることがあります。損傷した部位から脊髄の出血性の壊死(軟化)が頭側と尾側へ広がっていく病態で、多くは発症から数日のうちに進みます。

6-2. 症状の進み方

  1. 後肢がUMN徴候からLMN徴候へ:軟化が腰膨大(L4–S3)まで広がり、後肢の反射が消えて弛緩性麻痺になる。肛門もゆるむ
  2. 麻痺の境目が頭側へ移る:皮筋反射が消える境目が頭側へ移動し、腹筋の緊張もなくなる
  3. 前肢にも及ぶ:頸膨大まで達すると前肢もLMN徴候になり、ホルネル症候群がみられることもある
  4. 呼吸が止まる:横隔膜を動かす横隔神経(C5–C7)の分節まで達すると、呼吸筋が麻痺して死に至る

強い痛みと沈うつ、発熱を伴うことが多いのも特徴です。弛緩性の麻痺が頭側へ広がるという経過そのものが、症例問題の手がかりになります。

6-3. 病理

脊髄は灰白質と白質の区別がつかないほど出血と壊死を起こして軟らかくなり(融解壊死)、その変化が長い範囲に連続して広がります。MRIでは、T2強調像での脊髄内の高信号が長い範囲に及ぶことが、この病態を疑う所見になります。

7. 椎間板ヘルニアで国家試験に狙われるポイント

  • 構造:髄核と線維輪。背側の線維輪が薄く、背側へ飛び出しやすい
  • ハンセンI型:軟骨異栄養性犬種、髄核の軟骨様化生と石灰化、押し出し、急性
  • ハンセンII型:中高齢の大型犬、線維輪の線維性変性、膨隆、慢性進行性
  • 好発部位:胸腰椎移行部と頸部。T1〜T10付近は肋骨頭間靱帯があるためまれ
  • 重症度:グレード1〜5。深部痛覚の消失(グレード5)が最重度
  • MRI:変性した椎間板はT2で低信号。脊髄内のT2高信号は脊髄の傷を示す
  • 進行性脊髄軟化症:重度の損傷後に出血性の壊死が上下へ広がる。後肢のLMN化、皮筋反射の境目の頭側移動、前肢への波及、横隔神経の麻痺で死亡

8. 椎間板ヘルニアの確認問題

Q1. ハンセンI型とII型の椎間板ヘルニアの違いを、好発犬種・変性の部位・経過の3点から述べよ。

A. I型は軟骨異栄養性犬種に多く、髄核が軟骨様化生して石灰化し、線維輪を破って押し出されるため急性に発症する。II型は中高齢の大型犬に多く、線維輪が線維性に変性してゆっくり膨らむため、慢性で進行性の経過をとる。

Q2. 犬の椎間板ヘルニアがT1〜T10付近の胸椎でまれな理由を述べよ。

A. この部位では左右の肋骨頭をつなぐ肋骨頭間靱帯が椎間板の背側を横切って補強しており、椎間板の物質が脊柱管へ飛び出しにくいため。

Q3. 胸腰部の椎間板ヘルニアで、深部痛覚の有無が重要とされる理由を述べよ。

A. 深部痛覚は脊髄の圧迫に最も強く、最後まで残る感覚であるため。これが消えていれば脊髄が最も重い傷を負った状態で、回復の見込みが大きく下がり、進行性脊髄軟化症の危険もある。

Q4. MRIのT2強調像で、変性した椎間板が低信号になる理由を述べよ。

A. T2強調像では水分が高信号に写る。正常な髄核は水分が多いため高信号だが、変性した椎間板は水分を失っているため低信号になる。

Q5. 進行性脊髄軟化症で、犬が死に至るまでの症状の変化を述べよ。

A. 出血性の壊死が脊髄の上下へ広がり、腰膨大に達すると後肢はUMN徴候からLMN徴候(弛緩性麻痺)に変わる。皮筋反射の消える境目が頭側へ移動し、腹筋の緊張も失われる。頸膨大に及ぶと前肢もLMN徴候になり、横隔神経の分節(C5–C7)まで達すると呼吸筋が麻痺して死亡する。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。