前庭障害とホルネル症候群|【獣医師国家試験対策】

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頭を傾けて同じ方向へ回り続ける犬、片方の瞳孔が小さく、まぶたが下がった猫。国家試験では、こうした頭部と眼の徴候から、障害されている経路と部位を当てる問題が繰り返し出題されています。

本記事では、前庭障害を末梢性か中枢性かで見分ける方法と、小脳や大脳の徴候との違いを整理し、後半では眼へ向かう交感神経の3つのニューロンの経路からホルネル症候群を説明します。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。

  • 前庭障害:斜頸、眼振、旋回と、小脳障害の企図振戦との見分け
  • 大脳徴候と小脳徴候:てんかん発作・旋回と、企図振戦・測定障害の区別
  • ホルネル症候群:縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹、第三眼瞼の突出の4徴候
この記事で押さえること
  • 前庭徴候(捻転斜頸、眼振、旋回、運動失調)の出る向き
  • 末梢性と中枢性を見分ける4つの手がかり
  • 斜頸が病変と反対側に出る奇異性前庭症候群
  • 大脳・小脳・前庭の徴候の違い
  • 眼の交感神経の3つのニューロンと、ホルネル症候群の4徴候の理由

1. 前庭系と前庭徴候

前庭系は、頭の傾きと動きを感じ取って、体と眼の位置を保つしくみです。内耳の三半規管と耳石器が感じ取った情報は、前庭神経(第VIII脳神経)を通って延髄の前庭神経核と小脳へ送られます。この経路のどこかが片側で障害されると、次の徴候が現れます。

  • 捻転斜頸:頭が障害側へ傾く
  • 眼振:眼が一方へゆっくり流れ、反対へすばやく戻る動き。速い動き(急速相)は障害と反対側へ向かう
  • 旋回・転倒:障害側へ小さく回り、倒れる
  • 運動失調:体を傾けて障害側へふらつく、左右差のある失調
  • 斜視:頭を持ち上げると、障害側の眼が腹側へずれる

2. 末梢性か、中枢性か

前庭障害は、内耳と前庭神経の障害(末梢性)と、脳幹の前庭神経核や小脳の障害(中枢性)に分けられます。中枢性は脳幹そのものの病気なので、前庭以外の脳幹の機能も一緒に障害されるのが見分けの鍵です。

  • 意識:末梢性は正常。中枢性では沈うつなど意識の低下がみられることがある
  • 姿勢反応:末梢性は正常。中枢性では障害側の姿勢反応が低下する(脳幹を通る運動の経路も傷むため)
  • ほかの脳神経:末梢性では、内耳の近くを通る顔面神経の麻痺とホルネル症候群だけが伴うことがある。中枢性では、三叉神経や外転神経など複数の脳神経に異常が出る
  • 眼振:末梢性は水平か回旋性で、頭の位置を変えても向きが変わらない。垂直の眼振や、頭の位置で向きが変わる眼振は中枢性を示す

2-1. 末梢性の主な原因

  • 中耳炎・内耳炎:最も多い原因
  • 特発性前庭疾患:高齢犬や猫に急に起こる。症状は激しいが、数日から数週間で自然に改善していく
  • 甲状腺機能低下症(犬の甲状腺機能低下症の解説)、アミノグリコシド系抗菌薬などによる内耳の障害

2-2. 中枢性の主な原因

脳幹や小脳の腫瘍、炎症(肉芽腫性髄膜脳脊髄炎など)、梗塞などが原因になります。

奇異性前庭症候群 — 斜頸が反対を向く

小脳の前庭にかかわる部分(片葉小節葉や小脳脚)が障害されると、斜頸が病変と反対側へ向きます。このとき、姿勢反応の低下は病変と同じ側に出ます。斜頸の向きだけで病変の側を決めると誤るので、姿勢反応の低下している側を病変の側と考えます。

3. 大脳・小脳・前庭の徴候の違い

  • 大脳:てんかん発作、行動の変化、大きな円を描いて病変側へ回る旋回、病変と反対側の視覚障害と姿勢反応の低下。歩き方そのものは比較的保たれる
  • 小脳:企図振戦(食べようとするなど、動こうとしたときに頭がふるえる)、測定障害(肢を高く上げすぎる、幅の広い歩き方)。筋力と意識は保たれる。視覚があるのに威嚇瞬目反応が消えることがある
  • 前庭:捻転斜頸、眼振、小さく回る旋回と転倒、体を傾けた失調

旋回は大脳でも前庭でも起こります。斜頸と眼振を伴う小さな旋回なら前庭、発作や行動の変化を伴う大きな旋回なら大脳と区別してください。

4. ホルネル症候群

4-1. 眼へ向かう交感神経の3つのニューロン

瞳孔を広げる筋などを支配する交感神経は、脳から眼まで、3つのニューロンをリレーして長い道のりを進みます(図1)。

第1ニューロン視床下部 → 脳幹 → 頸髄 第2ニューロン(節前)T1–T3 → 胸部 → 頸部 第3ニューロン(節後)前頸神経節 → 中耳 → 眼 障害の例:脳幹・頸髄の病変 障害の例:腕神経叢の損傷、 縦隔の腫瘍、頸部の外傷 障害の例:中耳炎、 眼窩の病変 どこで切れても、眼の交感神経の働きが失われる → ホルネル症候群 縮瞳(瞳孔散大筋)・眼瞼下垂(まぶたの平滑筋) 眼球陥凹・第三眼瞼の突出(眼窩の平滑筋)

図1 眼へ向かう交感神経の3つのニューロン。どこで障害されても、眼の交感神経の働きが失われてホルネル症候群になる。

  • 第1ニューロン:視床下部から脳幹と頸髄を下り、胸髄のT1–T3へ
  • 第2ニューロン(節前線維):T1–T3から出て胸腔を通り、迷走神経と並んで頸部を上り、前頸神経節へ
  • 第3ニューロン(節後線維):前頸神経節から中耳のそばを通り、眼窩を経て眼へ

4-2. 4つの徴候の理由

  • 縮瞳:瞳孔を広げる瞳孔散大筋が働かなくなる
  • 眼瞼下垂:上まぶたを持ち上げる平滑筋が働かなくなる
  • 眼球陥凹:眼窩の平滑筋がゆるみ、眼球が奥へ引っ込む
  • 第三眼瞼の突出:眼球が引っ込むことで、第三眼瞼が前へ出てくる

4-3. 原因の場所

経路が長いため、原因はさまざまな場所にあります。とくに問われるのは次の3つです。

  • 腕神経叢の引き抜き損傷:交通事故で前肢が強く引かれ、T1–T3の神経根が傷むと、前肢のLMN徴候とホルネル症候群が同じ側に現れる
  • 中耳炎:第3ニューロンが中耳のそばを通るため。前庭障害や顔面神経の麻痺を伴うことがある
  • 頸部の手術や外傷:頸部を上る第2ニューロン(迷走交感神経幹)の損傷。猫の甲状腺の手術のあとにみられることもある(猫の甲状腺機能亢進症の解説)

原因がはっきりしない特発性のホルネル症候群も、とくにゴールデン・レトリーバーで知られています。

5. 前庭障害とホルネル症候群で国家試験に狙われるポイント

  • 前庭徴候の向き:斜頸・旋回・転倒は障害側、眼振の急速相は反対側
  • 末梢性:意識と姿勢反応は正常。顔面神経の麻痺とホルネル症候群だけが伴うことがある。中耳炎・内耳炎、特発性前庭疾患
  • 中枢性:意識の低下、障害側の姿勢反応の低下、複数の脳神経障害、垂直の眼振
  • 奇異性前庭症候群:小脳の病変で斜頸が反対側。姿勢反応の低下は病変側
  • 小脳徴候:企図振戦、測定障害。筋力は保たれる
  • 大脳徴候:てんかん発作、行動の変化、大きな旋回、反対側の視覚障害
  • ホルネル症候群:縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹、第三眼瞼の突出。3つのニューロンのどこでも起こる

6. 前庭障害とホルネル症候群の確認問題

Q1. 左へ頭を傾け、左へ回る犬で、意識と姿勢反応は正常、左の顔面神経の麻痺を伴っていた。末梢性と中枢性のどちらの前庭障害を考えるか。理由とともに述べよ。

A. 末梢性。意識と姿勢反応が正常で、伴う脳神経の異常が内耳の近くを通る顔面神経だけであるため。中耳炎・内耳炎が最も考えられる。

Q2. 中枢性の前庭障害を示唆する所見を3つ挙げよ。

A. 沈うつなどの意識の低下、障害側の姿勢反応の低下、三叉神経や外転神経など複数の脳神経の障害、垂直の眼振や頭の位置で向きが変わる眼振から3つ。

Q3. 小脳徴候として代表的なものを2つ挙げ、前庭徴候や大脳徴候と区別する点を述べよ。

A. 企図振戦と測定障害。小脳の障害では筋力と意識は保たれ、斜頸や眼振(前庭)、てんかん発作や行動の変化(大脳)が主体にならない点で区別する。

Q4. ホルネル症候群の4つの徴候を挙げ、それぞれが起こる理由を述べよ。

A. 縮瞳(瞳孔散大筋が働かない)、眼瞼下垂(上まぶたを持ち上げる平滑筋が働かない)、眼球陥凹(眼窩の平滑筋がゆるむ)、第三眼瞼の突出(眼球が奥に引っ込むため)。いずれも眼の交感神経の働きが失われて起こる。

Q5. 交通事故のあと、右前肢の反射が消えて筋が萎縮し、右眼にホルネル症候群がみられる犬で考えられる障害を述べよ。

A. 右の腕神経叢の引き抜き損傷。前肢の神経の根とともにT1–T3の神経根が傷み、眼へ向かう交感神経の第2ニューロン(節前線維)も障害されたため、前肢のLMN徴候とホルネル症候群が同じ側に現れる。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。