公衆衛生学|【獣医師国家試験対策】

公衆衛生学

公衆衛生学は試験全体の6分の1近くを占める最重要分野のひとつでありながら、対策が最も報われやすい領域でもあります。客観的な正解がはっきりしている設問が多いからです。

この分野の設問は大きく2種類に分かれます。数値を扱う問題(疫学計算、環境基準、潜伏期)と、法律の対象を問う問題(指定動物、届出期間、BSL区分)です。いずれも曖昧さがなく、覚えた分・計算できる分がそのまま点になります。

過去問分析に基づく出題傾向
出題割合約15〜18%
出題数の目安50〜60問
学説試験25〜35問

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、必須問題では8〜10問、学説試験では25〜35問、実地試験では12〜18問程度が出題されています。

食中毒疫学指標の計算感染症法による分類をおさえることが、この分野で高得点を取るための最短ルートです。

1. 分野の内訳

領域公衆衛生学に占める割合主な内容
食品衛生学約40%食中毒菌の同定、毒素の機序、HACCP、食品表示法、と畜検査・食鳥検査制度
ズーノーシスと
関連法規
約25%感染症法の分類と届出義務、狂犬病予防員、輸入禁止動物、野生動物対策
疫学・統計学約20%研究デザイン、オッズ比・相対リスク、感度・特異度、ROC曲線、統計学的検定
環境衛生学約15%塩素消毒、BOD/COD、逆転層、オゾン層、環境条約、廃棄物の分類
伝染病学との切り分け

人獣共通感染症は公衆衛生学と伝染病学の双方にまたがります。本サイトでは次の基準で分けています。

  • 公衆衛生学:ヒトの健康への影響、感染症法、疫学統計、環境、食品に関連する内容
  • 伝染病学:病原体の分類、家畜伝染病予防法、家畜の臨床症状・病理に関連する内容

したがって狂犬病人獣共通寄生虫の病原体や病態については伝染病学のページをご覧ください。

2. 感染症法の分類

感染症法はヒトの感染症を危険性と必要な措置の強さに応じて分類しています。分類そのものが「どこまで強い措置をとれるか」を規定している点が要点です。

感染症法における一類から五類までの分類と措置の強さを示す模式図 1類 最も厳格な措置 入院勧告、交通制限も可能 エボラ出血熱、ペスト、痘そう 2類 入院勧告、消毒等 結核、鳥インフルエンザ(H5N1等) 3類 就業制限、消毒等 飲食物を介して集団発生しうる 腸管出血性大腸菌感染症、コレラ 4類 対物措置が中心 動物や飲食物を介して感染する ヒトからヒトへは基本的に感染しない 狂犬病、炭疽、Q熱 エキノコックス症、SFTS レプトスピラ症、ボツリヌス症 5類 発生動向調査 届出による把握が中心 クリプトスポリジウム症 獣医領域に関わる感染症の多くは4類に含まれる。

図:感染症法の分類と措置の強さ。1類がもっとも厳格で、5類は発生動向の把握が中心となる。4類は動物や飲食物を介してヒトに感染するものが該当し、ヒトからヒトへは基本的に伝播しないため、就業制限ではなく消毒や動物の駆除といった対物措置が中心となる。

なぜ獣医関連は4類に集まるのか

4類は「動物や飲食物を介してヒトに感染するが、ヒトからヒトへは基本的に感染しない」感染症です。この性質から、必要な措置も自然に決まります。

ヒトからヒトへ広がらない以上、患者の就業制限や入院勧告には意味がありません。代わりに必要なのは感染源となる動物や環境への対処、すなわち消毒や媒介動物の駆除といった対物措置です。

狂犬病、炭疽、エキノコックス症、レプトスピラ症、Q熱、SFTSなど、獣医師が関わる感染症の多くがここに含まれます。

分類の確認について

感染症の分類は法令改正により変更されます。本ページの例示は代表的なものにとどめています。最新の一覧は厚生労働省の感染症情報でご確認ください。

2-1. 獣医師の届出義務

医師だけではない

感染症法は、特定の感染症と特定の動物の組み合わせについて、獣医師にも届出義務を課しています。

代表例が犬のエキノコックス症です。感染症法第13条により、診断した獣医師は直ちに、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市または特別区にあってはその長)に届け出なければなりません。サルや鳥類などについても対象となる組み合わせがあるため、対象の一覧は厚生労働省の公表資料でご確認ください。

「届出義務は医師だけのもの」という理解は誤りです。

3つの法律で届出先が異なる
根拠法届け出る者届出先
家畜伝染病予防法獣医師・所有者都道府県知事
狂犬病予防法獣医師・発見者保健所長
感染症法(第12条)医師保健所長を経由して都道府県知事
感染症法(第13条)獣医師保健所長を経由して都道府県知事

感染症法では「保健所長を経由して知事へ」という二段構えになっており、医師(第12条)も獣医師(第13条)も届出先は同じです。正確には最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市または特別区にあってはその長)に届け出ます。

実務上の窓口は保健所ですが、最終的な届出先は都道府県知事です。「保健所長に届け出る」という選択肢は、感染症法においては正確ではありません。一方、狂犬病予防法では届出先が保健所長である点が対照的です。

3. ベクター(媒介節足動物)

ベクター媒介する主な疾患
マダニSFTS、日本紅斑熱、ライム病、バベシア症
日本脳炎、マラリア、デング熱、ウエストナイル熱、犬糸状虫症
ツツガムシつつが虫病
ツェツェバエアフリカトリパノソーマ症(睡眠病)
サシチョウバエリーシュマニア症
シラミ発疹チフス、回帰熱
ノミペスト

ベクターが関与する感染症では、病原体だけでなく媒介動物の生態も対策の対象となります。マダニ対策としての草地管理や外部寄生虫駆除薬の使用、蚊の発生源対策などがこれにあたります。

4. 記事で扱っていない主要ズーノーシス

疾患要点
SFTS
(重症熱性血小板
減少症候群)
マダニが媒介するウイルス感染症。発熱、血小板減少、白血球減少、消化器症状を呈し致死率が高い。感染した猫や犬から人へ伝播した事例があり、獣医療従事者にとって職業上のリスクとなる
レプトスピラ症 スピロヘータによる感染症。げっ歯類の尿に排菌され、汚染された水や土壌から経皮・経口感染する(水系感染)。診断には顕微鏡下凝集試験(MAT)が用いられる。犬にはワクチンがある
Q熱 Coxiella burnetii による感染症。エアロゾル感染が主体で、家畜の胎盤や羊水が感染源となる。環境抵抗性が高く、少量の菌で感染が成立する
エムポックス オルソポックスウイルス属による感染症。げっ歯類がリザーバーと考えられている
獣医師自身のリスク

SFTSは、感染した猫や犬から獣医療従事者へ伝播した事例が報告されています。発熱と血小板減少を示す猫の診療にあたる際は、手袋やマスクの着用など標準予防策の徹底が求められます。

公衆衛生学は「他人を守る学問」であると同時に、自分を守るための知識でもあります。

5. 輸入規制とバイオセーフティ

5-1. 動物の輸入規制

感染症法に基づき、特定の動物については輸入そのものが禁止されています。コウモリ、プレーリードッグ、ヤワゲネズミ、ハクビシンなどが該当します。いずれも人獣共通感染症の病原体を保有するおそれがあるためです。

また輸入が可能な動物についても、輸入届出制度により、輸出国政府機関が発行した衛生証明書の添付などが求められます。

5-2. バイオセーフティレベル(BSL)

区分考え方
BSL1ヒトに病気を起こす可能性が低い微生物
BSL2ヒトや動物に病気を起こしうるが、重大な災害となる可能性は低い
BSL3重篤な病気を起こしうるが、通常はヒトからヒトへ伝播しにくい
BSL4重篤な病気を起こし、伝播しやすく、有効な治療法・予防法が確立していない

数字が大きいほど封じ込めの要求水準が高くなります。「重篤さ」と「伝播しやすさ」と「対処法の有無」という3つの軸で決まると理解しておけば、個別の病原体がどのレベルに該当するかも推測しやすくなります。

5-3. 特定病原体等(一種〜四種)

BSLは世界的に用いられる基準ですが、日本では感染症法において、これに対応する形で特定病原体等の管理規制が定められています。

区分BSL相当規制代表的な病原体
一種病原体等BSL4所持が原則禁止エボラウイルス、ラッサウイルス、マールブルグウイルス
二種病原体等BSL3(高)所持に許可が必要ペスト菌、炭疽菌、ボツリヌス菌、SARSコロナウイルス
三種病原体等BSL3(低)所持の届出が必要コクシエラ・バーネッティイ(Q熱)、狂犬病ウイルス
四種病原体等BSL2基準の遵守腸管出血性大腸菌、ポリオウイルス、クリプトスポリジウム、黄熱ウイルス
「類」と「種」を混同しない

感染症法には2つの異なる分類が存在します。

  • 感染症の「類」(1類〜5類)患者に対してどこまで強い措置をとれるかを定める分類
  • 病原体の「種」(一種〜四種)病原体そのものの所持や取扱いをどこまで規制するかを定める分類

この2つは一対一で対応しません。たとえば次のようになります。

  • 炭疽4類感染症だが、炭疽菌二種病原体等(所持に許可が必要)
  • 狂犬病4類感染症だが、狂犬病ウイルス三種病原体等(所持の届出が必要)

疾病としての公衆衛生上の対応と、病原体としての実験室内での危険性は別の観点で評価されているためです。設問で「類」を問われているのか「種」を問われているのかを、まず確認してください。

6. 重要テーマ別の詳細解説

得点源疫学指標と検査の評価

2×2表という一つの型さえ掴めば計算するだけの領域です。感度・特異度は縦、的中度は横、オッズ比は斜めという見る方向を軸に解説しています。症例対照研究でリスク比が算出できない理由や、有病率により陽性的中度が大きく変わることを計算例で示しました。

→ 疫学指標と検査の評価を読む

最頻出細菌性食中毒

感染型・毒素型・生体内毒素型という3分類から、潜伏期・発熱の有無・加熱の効果をすべて導く構成にしました。潜伏期の比較図、黄色ブドウ球菌の耐熱性エンテロトキシン乳児ボツリヌス症ウェルシュ菌における加熱の逆説を扱います。

→ 細菌性食中毒を読む

食品自然毒とカビ毒

自然毒はほぼすべて耐熱性であり、加熱では防げないという原則を軸にしています。テトロドトキシン・シガトキシン・ボツリヌス毒素の作用点の違いを図解し、ゼアラレノンやフモニシンなど家畜で問題となるカビ毒も扱います。

→ 自然毒とカビ毒を読む

法規食品衛生の法規と制度

と畜検査員・食品衛生監視員・家畜防疫員・家畜防疫官という獣医職を、根拠法と所属で整理しました。HACCPの12手順と7原則の対応を図解し、と畜検査が3段階である理由、ホスファターゼ試験の原理も扱います。

→ 食品衛生の法規と制度を読む

環境環境衛生

不連続点塩素処理の曲線を図解し、次亜塩素酸が次亜塩素酸イオンより殺菌力が強い理由とpHとの関係を扱います。逆転層では大気が安定するために汚染が悪化するという直感に反する仕組み、POPsの4条件、産業廃棄物の分類も解説しています。

→ 環境衛生を読む

7. 推奨する学習順序

  1. 計算を先に固める:疫学指標と検査の評価。パターンさえ掴めば確実に満点を狙える領域であり、最優先です
  2. 最大分野を攻略する:細菌性食中毒 → 自然毒とカビ毒。食品衛生学は公衆衛生学の約40%を占めます
  3. 制度を押さえる:食品衛生の法規と制度。獣医職の役割は自身の進路にも関わります
  4. 環境を押さえる:環境衛生。塩素消毒と逆転層が中心です
  5. 横断知識を補う:本ページ第2〜5章で感染症法の分類、ベクター、輸入規制、BSLを確認します
関連ページ

病原体そのものの性質や家畜における病態は伝染病学のページで扱っています。ワクチンによる集団免疫の考え方は免疫学をご覧ください。

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月23日/最終更新日:2026年8月23日
本ページは獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。感染症の分類、法令および基準は改正される場合があるため、最新の情報は厚生労働省など所管官庁の公表資料をご確認ください。