臨床獣医学 > 内科 > 皮膚 > 皮膚病理の読み方と自己免疫性皮膚疾患
皮膚の病理組織像を示して疾患名を選ばせる問題は、学説試験と実地試験の両方で出題されています。天疱瘡、エリテマトーデス、多形紅斑などの自己免疫性・免疫介在性の皮膚疾患は、「表皮のどの層で、何が壊れているか」で見分けられます。
本記事では、まず皮疹の用語(原発疹と続発疹)を整理し、次に表皮の構造と病理の用語を押さえたうえで、代表的な疾患を「壊れる層」ごとに並べました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 用語:原発疹(水疱、膿疱、局面、結節など)と続発疹(潰瘍、痂皮、鱗屑、苔癬化)の区別
- 病理組織:落葉状天疱瘡の表皮内膿疱と棘融解細胞、エリテマトーデスの境界部皮膚炎、多形紅斑の表皮細胞のアポトーシスと疾患名の組み合わせ
- 関連疾患:ぶどう膜皮膚症候群のメラノファージ、ダックスフンドなどの無菌性結節性脂肪織炎の細胞診像
- 原発疹と続発疹の区別
- 表皮の4層とデスモソーム、基底膜
- 落葉状天疱瘡は表皮の上層、尋常性天疱瘡は基底層の直上で裂けること
- エリテマトーデスの境界部皮膚炎と、全身性の病気との関係
- 多形紅斑の角化細胞のアポトーシス
- ぶどう膜皮膚症候群と無菌性結節性脂肪織炎の特徴
1. 原発疹と続発疹
病気が最初に皮膚につくる変化が原発疹、原発疹が時間とともに変わったり、掻いたりこすったりして後からできる変化が続発疹です。
- 原発疹:斑(盛り上がりのない色の変化)、丘疹(小さな盛り上がり)、局面(平たく広い盛り上がり)、膿疱(膿を含む小さなふくらみ)、水疱(透明な液を含むふくらみ)、膨疹(すぐ消えるむくみ)、結節・腫瘤(深い大きなしこり)
- 続発疹:鱗屑(はがれた角質、ふけ)、痂皮(乾いた滲出液や膿、かさぶた)、びらん(表皮だけの浅い欠損)、潰瘍(真皮に達する深い欠損)、苔癬化(掻き続けて皮膚が厚く硬くなる)、色素沈着、表皮小環(膿疱が破れた跡の輪状の鱗屑)、瘢痕
膿疱や水疱は破れると痂皮や表皮小環、びらんに変わります。つまり中身を包んだ「ふくらみ」は原発疹、それが破れたり欠けたりした跡は続発疹です。この流れで覚えると区別しやすくなります。
2. 表皮の構造と病理の用語
表皮は外側から角質層・顆粒層・有棘層・基底層の4層で、基底層は基底膜を隔てて真皮に接しています。角化細胞どうしはデスモソームでつながり、基底層の細胞は基底膜にしっかり固定されています(図1)。
図1 表皮の層と、自己免疫性皮膚疾患で障害される層。疾患ごとに「どの層で何が壊れるか」が決まっている。
- 棘融解:デスモソームの結合が失われ、角化細胞がばらばらに離れて丸くなる。この丸くなった細胞を棘融解細胞という
- 境界部皮膚炎:表皮と真皮の境目に炎症が集中し、基底層の細胞が空胞化したり、アポトーシスを起こしたりする
- アポトーシス:細胞が縮んで好酸性になり、核が凝縮して死ぬ。まわりにリンパ球が寄り添うことがある
3. 天疱瘡 — デスモソームへの自己抗体
天疱瘡は、角化細胞どうしをつなぐデスモソームのタンパク質(デスモグレインなど)に対する自己抗体によって棘融解が起こる病気です。自己抗体が自分の細胞を攻撃するII型過敏症にあたります(アレルギーの解説)。
3-1. 落葉状天疱瘡
- 頻度:犬と猫で最も多い自己免疫性皮膚疾患
- 病変の層:角質層の下から顆粒層という表皮の上層
- 病理:表皮内の膿疱の中に、好中球や好酸球とともに棘融解細胞が浮かぶ
- 症状:鼻梁、耳介、眼のまわりなどの顔面と肉球に、左右対称の膿疱と痂皮。膿疱はすぐ破れて痂皮になる
3-2. 尋常性天疱瘡
自己抗体の標的が表皮の深い層にあるため、基底層の直上で裂け目ができます。深い層で裂けるので水疱が破れやすく、口腔や粘膜皮膚移行部にびらん・潰瘍ができ、落葉状天疱瘡より重症です。
浅い層で裂ける落葉状天疱瘡は膿疱と痂皮が中心で、深い層で裂ける尋常性天疱瘡はびらん・潰瘍が中心です。組織像で裂け目の位置を見れば、どちらかを決められます。
4. エリテマトーデス — 境界部皮膚炎
- 病理:表皮と真皮の境目に、リンパ球などが帯のように集まり、基底層の細胞が空胞化やアポトーシスを起こす(境界部皮膚炎)。基底層のメラニンが真皮へこぼれ落ちる
- 皮膚型(円板状エリテマトーデス):鼻平面の脱色素、びらん、鼻の表面の石畳状の模様の消失。日光で悪化する
- 全身性エリテマトーデス:抗核抗体などの自己抗体と免疫複合体が全身に沈着する病気で、III型過敏症にあたる。皮膚のほか、多発性関節炎、糸球体腎炎、溶血性貧血、血小板減少症など複数の臓器に症状が出る。血液検査で抗核抗体が陽性になる
5. 多形紅斑 — 表皮の細胞のアポトーシス
- 病理:表皮の各層に角化細胞のアポトーシスが散らばり、その細胞にリンパ球が寄り添う
- 原因:薬(サルファ剤などの抗菌薬)や感染症などに対する過敏反応
- 症状:中心がくすみ、まわりが赤い、的のような輪状の紅斑。重症では広い範囲がはがれる
6. ぶどう膜皮膚症候群と無菌性結節性脂肪織炎
6-1. ぶどう膜皮膚症候群
秋田犬、シベリアン・ハスキーなどで、メラニンをつくる細胞(メラノサイト)が免疫に攻撃される病気です。眼ではぶどう膜炎が、皮膚では鼻、口唇、まぶたの脱色素(白斑・白毛)が同時に起こります。皮膚の病理では境界部の炎症とともに、メラニンを取り込んだマクロファージ(メラノファージ)が集まります。ぶどう膜炎が進むと失明するため、眼の症状が問題になります(眼と耳の疾患の分野別まとめ)。
6-2. 無菌性結節性脂肪織炎
皮下の脂肪織に炎症が起こり、多数のしこりができる病気で、ダックスフンドなどに多くみられます。しこりは破れて油っぽい液を出し、瘻孔になります。細胞診(ライトギムザ染色など)では、脂肪を取り込んだ泡沫状のマクロファージと好中球がみられ、細菌や真菌は見つかりません。
7. 自己免疫性皮膚疾患で国家試験に狙われるポイント
- 原発疹:斑、丘疹、局面、膿疱、水疱、膨疹、結節・腫瘤
- 続発疹:鱗屑、痂皮、びらん、潰瘍、苔癬化、色素沈着、表皮小環、瘢痕
- 落葉状天疱瘡:最も多い。角質層の下〜顆粒層の膿疱と棘融解細胞。顔面と肉球。II型過敏症
- 尋常性天疱瘡:基底層の直上の裂け目。口腔・粘膜皮膚移行部のびらん・潰瘍。重症
- エリテマトーデス:境界部皮膚炎(基底層の空胞化・アポトーシス)。全身性は抗核抗体、III型過敏症、多臓器の症状
- 多形紅斑:表皮の各層の角化細胞のアポトーシス。薬や感染への過敏反応
- ぶどう膜皮膚症候群:秋田犬など。ぶどう膜炎と脱色素。メラノファージ
- 無菌性結節性脂肪織炎:ダックスフンドなど。多発性の皮下結節と瘻孔。泡沫状マクロファージと好中球、細菌なし
8. 自己免疫性皮膚疾患の確認問題
Q1. 次のうち原発疹にあたるものをすべて選べ。膿疱、痂皮、水疱、潰瘍、結節、苔癬化。
A. 膿疱、水疱、結節。痂皮、潰瘍、苔癬化は、原発疹が変化したり掻いたりして後からできる続発疹である。
Q2. 落葉状天疱瘡の病理組織の特徴を、病変の層と細胞の変化から述べよ。
A. 角質層の下から顆粒層という表皮の上層に膿疱ができ、その中にデスモソームの結合を失ってばらばらに丸くなった棘融解細胞が、好中球や好酸球とともにみられる。
Q3. 落葉状天疱瘡と尋常性天疱瘡で症状の重さが異なる理由を、裂け目の位置から述べよ。
A. 落葉状天疱瘡は表皮の上層で裂けるため、膿疱と痂皮が中心で比較的軽い。尋常性天疱瘡は基底層の直上という深い層で裂けるため、水疱が破れて口腔や粘膜皮膚移行部にびらん・潰瘍ができ、重症になる。
Q4. 境界部皮膚炎とはどのような病理像か。また、これを示す代表的な疾患を挙げよ。
A. 表皮と真皮の境目に炎症細胞が帯のように集まり、基底層の細胞が空胞化やアポトーシスを起こす病理像である。エリテマトーデスが代表的で、ぶどう膜皮膚症候群でもみられる。
Q5. ダックスフンドの多発性の皮下結節から採取した細胞診で、泡沫状のマクロファージと好中球がみられ、細菌は認められなかった。考えられる疾患は何か。
A. 無菌性結節性脂肪織炎。皮下の脂肪織の炎症で、しこりが破れて瘻孔をつくることがあり、細胞診で病原体が見つからないのが特徴である。
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参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)