臨床獣医学 > 内科 > 皮膚 > 皮膚の腫瘍
皮膚のしこりから細針吸引(FNA)で採った細胞の像や、病理組織の像を示して腫瘍の名前を問う問題は、実地試験で繰り返し出題されています。皮膚の腫瘍は、細胞診で見える細胞の形と、その腫瘍ならではの性質を組み合わせると見分けられます。
本記事では、まず細胞診の見方の基本を押さえ、そのうえで試験によく出る4つの腫瘍を整理しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 肥満細胞腫:細胞診や組織像での異染性(トルイジンブルー染色で赤紫)、脱顆粒によるヒスタミンの放出と周囲の紅斑
- 犬皮膚組織球腫:若い犬に多く、自然に退縮することが多い良性の病変
- 扁平上皮癌・皮膚リンパ腫:指の病変や皮膚の病理組織像(ポートリエ微小膿瘍)
- 細胞診の3つの型(独立円形細胞・上皮系・間葉系)
- 肥満細胞腫の顆粒と異染性、脱顆粒で起こること(ダリエ徴候、胃潰瘍)
- 皮膚組織球腫が若い犬に多く、自然に消えること
- 扁平上皮癌の紫外線との関係と、がん真珠
- 上皮向性リンパ腫のポートリエ微小膿瘍
1. 細胞診の3つの型
- 独立円形細胞:丸い細胞がばらばらに採れる。肥満細胞腫、組織球腫、リンパ腫、形質細胞腫などの、皮膚の腫瘍で特に大切なグループ
- 上皮系:細胞どうしがくっついた集塊として採れる。扁平上皮癌などの癌
- 間葉系:紡錘形の細胞がまばらに採れる。軟部組織肉腫など
丸い細胞がばらばらに採れたら、その細胞の細胞質に顆粒があるかをまず見ます。紫の顆粒がぎっしり詰まっていれば肥満細胞腫です。
2. 肥満細胞腫
- 位置づけ:犬で最も多い皮膚の悪性腫瘍。ボクサー、パグ、レトリーバーなどに多い。見た目はいぼ状、脂肪腫のような柔らかいしこり、赤い潰瘍などさまざまで、見た目だけでは判断できない
- 細胞診:円形の細胞の細胞質に、紫色の細かい顆粒が詰まっている。好酸球がまじることが多い
- 異染性:トルイジンブルーで染めると、顆粒が色素本来の青ではなく赤紫に染まる。顆粒に含まれるヘパリンなどの酸性の物質による(染色法と細胞の同定の解説)
2-1. 脱顆粒で起こること
肥満細胞の顆粒にはヒスタミンやヘパリンが含まれています。腫瘍を触ったりこすったりすると顆粒が放出され(脱顆粒)、次のことが起こります。
- ダリエ徴候:こすった腫瘍とその周りが、赤く腫れ上がる
- 胃・十二指腸の潰瘍:ヒスタミンが胃のH2受容体を刺激して胃酸の分泌が増える
- 出血:ヘパリンの作用で、手術や採材のあと出血が止まりにくくなることがある
悪性度は病理組織のグレードで評価されます。猫では皮膚の型のほかに、脾臓に起こる型もあります。
3. 犬皮膚組織球腫
- 好発:3歳未満の若い犬
- 見た目:頭部、耳介、四肢に、単発の赤いボタン状のしこりが急に現れる
- 由来:皮膚の抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞)
- 細胞診:顆粒のない円形の細胞。退縮が始まると、リンパ球が多くまじる
- 経過:良性で、数か月以内に自然に退縮することが多い。リンパ球が集まって腫瘍を排除していく
若い犬の頭や耳に急に出た赤いしこりなら、まず組織球腫を考えます。同じ独立円形細胞でも、顆粒があれば肥満細胞腫、なければ組織球腫と、細胞診で区別できます。
4. 扁平上皮癌
- 猫:白い被毛の猫の耳介の先、鼻平面、まぶたなど、毛が薄く日光の当たる部位に多い。紫外線が原因になる
- 犬:趾(指)の爪床に多く、黒い被毛の大型犬でよくみられる。指の骨を溶かして進む
- 病理:腫瘍細胞が層状に角化して渦巻きをつくるがん真珠(角化真珠)と、細胞どうしをつなぐ細胞間橋が特徴
- 性質:局所で深く浸潤して組織を壊す
5. 上皮向性リンパ腫
- 由来:T細胞の腫瘍で、表皮や毛包などの上皮に入り込む性質(上皮向性)をもつ
- 病理:腫瘍性のリンパ球が表皮に入り込み、表皮の中で小さな集まりをつくる。これをポートリエ微小膿瘍という(膿瘍という名前だが、中身は腫瘍細胞)
- 症状:高齢の犬に、全身の紅斑、鱗屑、脱色素、口唇などの粘膜皮膚移行部の病変。初めは皮膚炎と見分けにくい
6. 皮膚の腫瘍で国家試験に狙われるポイント
- 細胞診:独立円形細胞(肥満細胞腫・組織球腫・リンパ腫・形質細胞腫)、上皮系(集塊)、間葉系(紡錘形)
- 肥満細胞腫:犬で最も多い皮膚の悪性腫瘍。紫の顆粒、トルイジンブルーで赤紫(異染性)、好酸球。脱顆粒でダリエ徴候、胃・十二指腸潰瘍、出血
- 皮膚組織球腫:3歳未満、頭部・耳介・四肢の赤いボタン、ランゲルハンス細胞由来、自然退縮
- 扁平上皮癌:猫は白い毛の耳介・鼻(紫外線)、犬は爪床。がん真珠と細胞間橋
- 上皮向性リンパ腫:T細胞、表皮内のポートリエ微小膿瘍、高齢犬の紅斑・脱色素
7. 皮膚の腫瘍の確認問題
Q1. 犬の皮膚のしこりのFNAで、紫色の顆粒をもつ円形の細胞と好酸球がみられた。考えられる腫瘍と、確認に用いる染色とその所見を答えよ。
A. 肥満細胞腫。トルイジンブルーで染めると、顆粒が色素本来の青ではなく赤紫に染まる異染性を示す。
Q2. 肥満細胞腫の犬で胃・十二指腸の潰瘍が起こる仕組みを述べよ。
A. 腫瘍の脱顆粒で放出されたヒスタミンが胃のH2受容体を刺激し、胃酸の分泌が増えるため。
Q3. ダリエ徴候とは何か。
A. 肥満細胞腫をこすったり触ったりすると、脱顆粒によってヒスタミンなどが放出され、腫瘍とその周りが赤く腫れ上がる現象。
Q4. 1歳の犬の耳介に急に現れた赤いボタン状のしこりで、FNAでは顆粒のない円形細胞とリンパ球がみられた。考えられる疾患と、その経過の特徴を述べよ。
A. 犬皮膚組織球腫。ランゲルハンス細胞由来の良性腫瘍で、リンパ球が集まって腫瘍を排除し、数か月以内に自然に退縮することが多い。
Q5. ポートリエ微小膿瘍とはどのような所見で、どの腫瘍の特徴か。
A. 表皮に入り込んだ腫瘍性のリンパ球が、表皮の中で小さな集まりをつくったもの。T細胞由来の上皮向性リンパ腫の特徴である。
関連コンテンツ
理解度チェック
- むずかしい:臓器病理推理ラボ — 肥満細胞腫などの病理所見から病態を見分けます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:皮膚疾患 — 皮疹と検査の像から原因を当てる考え方と、皮膚全体の出題傾向を整理しています。
- 染色法と細胞の同定 — トルイジンブルーの異染性など、細胞を見分ける染色を扱います。
- 超簡単まとめ:腫瘍の分類とTNM — 腫瘍の分類と病期の考え方を図解で確認できます。
- 皮膚病理の読み方と自己免疫性皮膚疾患 — 表皮の層と病理の用語を扱います。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)