臨床獣医学 > 内科 > 神経 > 脊髄の病変局在
神経学的検査の結果を表で示し、「病変はどこにあるか」を選ばせる問題は、実地試験の定番です。一見むずかしそうですが、判定のしかたは「前肢と後肢が、それぞれUMN徴候かLMN徴候か」の組み合わせだけで決まります。
本記事では、UMN徴候とLMN徴候の違いから始めて、脊髄の4区分の判定、反射を使った細かい絞り込み、局在を読み取るときのひっかけまでを、一続きで整理しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 検査表の読み取り:姿勢反応・脊髄反射・痛覚の結果の表から、「T3–L3」「C6–T2」などの局在を選ばせる問題
- UMNとLMNの区別:反射の亢進・低下から、上位と下位のどちらの運動ニューロンの障害かを判断させる問題
- UMN徴候とLMN徴候の反射・筋緊張・筋萎縮の違い
- 脊髄の4区分と、それぞれの前肢・後肢の組み合わせ
- 4区分が頸膨大と腰膨大で分かれる理由
- 膝蓋腱反射・引っ込め反射・会陰反射・皮筋反射でさらに絞り込む方法
- 圧迫で失われる機能の順番と、深部痛覚の意味
- シフ・シェリントン姿勢で前肢の異常を頸部の病変と取り違えないこと
1. UMN徴候とLMN徴候
肢を動かす指令は、脳から脊髄を下る上位運動ニューロン(UMN)から、脊髄の灰白質にある下位運動ニューロン(LMN)に受け渡され、末梢神経を通って筋に届きます。どちらが障害されたかで、肢に現れる徴候が逆になります。
- UMN徴候:脊髄反射は正常〜亢進、筋の緊張は正常〜亢進(突っ張る)、筋萎縮は軽く遅れて起こる。反射の弧(感覚神経 → 脊髄 → 運動神経)は無事で、脳からのブレーキだけが外れた状態
- LMN徴候:脊髄反射は低下〜消失、筋の緊張は低下(だらりとする)、筋萎縮が早く強く起こる。反射の弧そのものが壊れた状態
LMNは反射の弧の一部なので、壊れれば反射が消えます。UMNは反射の弧の外にあって反射を抑える役なので、壊れると反射はむしろ強くなります。この一点で、UMN徴候とLMN徴候の違いはすべて説明できます。
2. 脊髄の4区分と判定
前肢の神経はC6〜T2(頸膨大)から、後肢の神経はL4〜S3(腰膨大)から出ます。膨大部の運動ニューロンが壊れればその肢はLMN徴候に、膨大部より頭側で下行路が切れれば、それより後ろの肢はUMN徴候になります。この2つの膨大部を境に、脊髄は4つに区分されます(図1)。
図1 脊髄の4区分と、前肢・後肢に現れる徴候の組み合わせ。膨大部(C6–T2、L4–S3)が障害されると、その膨大部から神経が出る肢はLMN徴候になる。
- C1–C5:前肢UMN、後肢UMN。四肢すべてに不全麻痺が出る。頸部の痛みを伴うことが多い
- C6–T2:前肢LMN、後肢UMN。T1–T3からは眼へ向かう交感神経が出るため、ホルネル症候群を伴うことがある
- T3–L3:前肢は正常、後肢UMN。犬の椎間板ヘルニアで最も多い区分
- L4–S3:前肢は正常、後肢LMN。尾や会陰、排尿にも異常が出ることがある
T3–L3の病変では、前肢へ向かう経路は障害部位より頭側にあるため前肢は正常です。前肢にもUMN徴候があるなら、病変は前肢の経路も通るC1–C5にあります。4区分は「前肢が正常か、UMNか、LMNか」から先に決めると取り違えません。
3. 反射でさらに絞り込む
それぞれの反射は、決まった神経と脊髄分節を通ります。低下している反射と保たれている反射の境目から、区分の中でも位置を絞れます。
- 膝蓋腱反射:大腿神経、L4–L6。低下していれば腰膨大の頭側寄り
- 後肢の引っ込め反射:主に坐骨神経、L6–S1(S2)
- 会陰反射:陰部神経、S1–S3。肛門のまわりの反応と尾の動き。馬尾の障害で低下する
- 前肢の引っ込め反射:C6–T2から出る前肢の神経
- 皮筋反射:背中の皮膚をつまむと体幹の皮筋が動く反射。T3–L3の病変では、病変より少し尾側で反射が消える境目ができるため、病変の位置の目安になる
なお、脊髄の分節は椎骨より頭側にずれて位置しており、犬の脊髄は第6〜7腰椎付近で終わります。L4–S3の分節は、第3〜5腰椎のあたりにあたります。
4. 障害の重さ — 失われる機能の順番
脊髄が圧迫されると、細い神経線維ほど圧迫に強いため、機能はおおむね次の順に失われます。
- 固有位置感覚(肢の位置の感覚)
- 随意運動(自分で動かす力)
- 表在痛覚(皮膚の痛み)
- 深部痛覚(骨や関節の痛み)
深部痛覚が消えていれば、脊髄は最も重い段階の障害を受けています。深部痛覚は、脊髄の障害の重さと予後を判断するうえで最も重要な所見です。なお、痛みに対して肢を引っ込めるのは脊髄反射なので、引っ込め反射があっても痛覚があるとは限りません。痛覚があるかどうかは、振り向く、鳴くといった脳の反応で判断します。
5. 排尿の異常
- UMN性の膀胱(仙髄より頭側の脊髄の病変):尿道括約筋の緊張が高く、膀胱は大きく張っているのに圧迫しても尿を出しにくい
- LMN性の膀胱(仙髄S1–S3や骨盤神経の病変):括約筋がゆるみ、膀胱は軽い圧迫で簡単に尿が漏れる
6. シフ・シェリントン姿勢
T3–L3の急性で重い病変では、前肢が突っ張り(伸筋の緊張の亢進)、後肢は麻痺する姿勢がみられることがあります。腰部の脊髄にある、前肢の伸筋を抑える細胞からの連絡が断たれるためです。前肢の緊張が上がって見えても、前肢の随意運動と姿勢反応は正常で、病変は頸部ではなくT3–L3にあります。
7. 脊髄の病変局在で国家試験に狙われるポイント
- UMN徴候:反射と筋緊張は正常〜亢進、筋萎縮は軽い
- LMN徴候:反射と筋緊張は低下〜消失、筋萎縮が早く強い
- 4区分:C1–C5(前UMN・後UMN)、C6–T2(前LMN・後UMN)、T3–L3(前正常・後UMN)、L4–S3(前正常・後LMN)
- 反射:膝蓋腱 L4–L6、後肢の引っ込め L6–S1、会陰 S1–S3、皮筋反射の消える境目で T3–L3 を絞る
- 重症度:固有位置感覚 → 随意運動 → 表在痛覚 → 深部痛覚の順に失われる。深部痛覚の消失は最重度
- 排尿:UMN性は張って出しにくい、LMN性はゆるんで漏れやすい
- シフ・シェリントン姿勢:前肢の突っ張りと後肢の麻痺。病変はT3–L3
8. 脊髄の病変局在の確認問題
Q1. 前肢の脊髄反射が低下し筋萎縮があり、後肢の脊髄反射は亢進している犬の病変部位はどこか。
A. C6–T2。前肢はLMN徴候、後肢はUMN徴候の組み合わせで、前肢の神経が出る頸膨大の障害を示す。
Q2. 前肢の神経学的検査は正常で、後肢の膝蓋腱反射と引っ込め反射が亢進している犬の病変部位はどこか。
A. T3–L3。前肢は正常、後肢はUMN徴候の組み合わせである。
Q3. 四肢すべてに不全麻痺があり、四肢の脊髄反射がいずれも正常〜亢進している犬の病変部位はどこか。T3–L3ではない理由もあわせて述べよ。
A. C1–C5。T3–L3の病変では前肢へ向かう経路は障害されないため前肢は正常になる。前肢にもUMN徴候があるので、前肢と後肢の両方の経路が通るC1–C5の病変と判断する。
Q4. 脊髄の圧迫で機能が失われる順番を述べ、深部痛覚の消失が意味することを答えよ。
A. 固有位置感覚、随意運動、表在痛覚、深部痛覚の順に失われる。深部痛覚の消失は最も重い段階の障害を示し、予後の判断に最も重要な所見である。
Q5. 急性の胸腰部の脊髄損傷の犬で、前肢が突っ張って伸筋の緊張が亢進している。病変を頸部と判断してはいけない理由を述べよ。
A. シフ・シェリントン姿勢の可能性があるため。腰部の脊髄にある前肢の伸筋を抑える細胞からの連絡がT3–L3の病変で断たれると、前肢の伸筋の緊張が上がる。前肢の随意運動と姿勢反応は正常で、病変はT3–L3にある。
関連コンテンツ
理解度チェック
- ふつう:神経トレースラボ — 末梢神経の走行から支配筋、失われる動きまでをたどり、LMN徴候の理解を深めます。
- むずかしい:神経局在推理ラボ — 症状から神経系、障害部位、病態の順に絞り込む練習ができます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:神経疾患 — 「どこか → なにか」の2段階の考え方と、神経全体の出題傾向を整理しています。
- 椎間板ヘルニアと進行性脊髄軟化症 — T3–L3の局在が最も多い、犬の代表的な脊髄疾患です。
- 前庭障害とホルネル症候群 — C6–T2の病変や腕神経叢の損傷で起こるホルネル症候群を、交感神経の経路から扱います。
- 解説ブック:犬と猫の神経学的検査 — 姿勢反応や脊髄反射などの検査の手技と解釈を体系的に扱います。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 家畜比較解剖図説 養賢堂
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)