臨床獣医学 > 繁殖 > 馬・豚・めん羊と山羊の繁殖
馬、豚、めん羊と山羊は、それぞれの飼われ方に結びついた繁殖の特徴をもっています。国家試験では、馬の交配の適期、豚の妊娠期間や繁殖障害、めん羊の発情周期や妊娠中毒などが出題されています。
本記事では、動物ごとに「繁殖の季節と性周期 → 交配と妊娠 → 分娩 → 繁殖障害」の順に整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 馬:直腸検査の所見からの交配の適期の判断、馬伝染性子宮炎、卵巣の顆粒膜細胞腫
- 豚:妊娠期間(114日)、発情の持続時間、卵巣嚢腫、ゼアラレノン、日本脳炎
- めん羊・山羊:めん羊の発情周期(17日)、妊娠中毒
- 馬は日が長くなる季節に、めん羊と山羊は日が短くなる季節に繁殖すること
- 馬の長い発情と、卵胞の大きさで決める交配の適期
- 馬の妊娠でeCGをつくる子宮内膜杯
- 豚の妊娠期間114日と、授乳中に発情が来ないこと
- 豚の繁殖障害を起こすゼアラレノンと感染症
- めん羊と山羊の妊娠中毒
1. 馬の繁殖
1-1. 繁殖の季節と性周期
馬は、日が長くなる春から夏に発情を繰り返す長日性の季節繁殖動物です。発情周期は約21日ですが、発情期が5〜7日と長いのが特徴です。排卵は発情期の終わりの1〜2日前に起こります。
1-2. 交配の適期
発情期が長く、いつ排卵するかが発情の徴候だけではわかりにくいため、直腸検査や超音波で卵胞の大きさを確かめ、十分に育った卵胞が排卵する直前に交配します。発情期に入っていても、卵胞がまだ小さければ、交配の適期は数日後と判断します。馬の卵巣は、表面の決まったくぼみ(排卵窩)からだけ排卵するという特徴もあります。
1-3. 妊娠
- 子宮内膜杯とeCG:妊娠35〜40日ごろ、胎子側の細胞が子宮内膜に入り込んで子宮内膜杯をつくり、eCG(馬絨毛性性腺刺激ホルモン)を出す。eCGは卵巣に追加の黄体(副黄体)をつくらせ、妊娠を支える
- 胎盤:絨毛が胎膜の全体に散らばる汎毛胎盤
- 妊娠期間:約335日(約11か月)
- 分娩後の発情:分娩後7〜10日ほどで最初の発情が来る
1-4. 繁殖障害
- 馬伝染性子宮炎:Taylorella equigenitalisによる、交配でうつる感染症。交配の数日後から子宮内膜炎と子宮頸管炎を起こし、大量の分泌物が出て、一時的な不妊になる。雄は症状を示さずに菌をもち続け、次々にうつす。届出伝染病
- 馬鼻肺炎:馬ヘルペスウイルス1型の感染で、妊娠後期の流産を起こす
- 卵巣の顆粒膜細胞腫:馬の卵巣の腫瘍で最も多い。雄のような行動や、反対側の卵巣の萎縮を起こす(生殖器と乳腺の腫瘍の解説)
2. 豚の繁殖
2-1. 性周期と発情
豚は一年中繁殖する周年繁殖動物で、発情周期は約21日です。発情は2〜3日(平均約50時間)続きます。発情した雌豚は、雄の存在のもとで背中を押されてもじっと動かない(背圧反応)ため、これで発情を見つけます。排卵は発情の後半に起こり、1回に多数の卵子を排卵して、多数の子(多胎)を妊娠します。
2-2. 妊娠と分娩
- 妊娠の認識:妊娠11〜12日ごろ、胚がエストロジェンを出し、子宮のPGF2αが黄体に届かないようにして黄体を維持する
- 胎盤:絨毛が胎膜の全体に散らばる汎毛胎盤
- 妊娠期間:約114日(「3か月3週3日」と覚える)
- 分娩後:授乳している間は発情が抑えられ、子豚を離乳すると4〜7日ほどで発情が来る
2-3. 繁殖障害
- 卵巣嚢腫:卵巣に多数の大きな嚢腫ができ、発情が不規則になったり来なくなったりする
- ゼアラレノン:Fusarium属のカビが飼料につくる毒素で、エストロジェンに似た作用をもつ。若い雌豚の外陰部が赤く腫れ、発情のような状態(偽発情)、不妊、流産を起こす
- 夏季の不妊:暑さで受胎しにくくなる
- 繁殖障害を起こす感染症:豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS、流産や死産)、日本脳炎(死産、ミイラ化した胎子、雄の精巣炎)、豚パルボウイルス感染症(初めて妊娠した雌豚の死産、ミイラ化した胎子、胚の死滅)、オーエスキー病(流産)
3. めん羊と山羊の繁殖
3-1. 繁殖の季節と性周期
めん羊と山羊は、日が短くなる秋に発情を繰り返す短日性の季節繁殖動物です。発情周期は、めん羊で約17日、山羊で約21日です。
3-2. 妊娠
- 胎盤:牛と同じく、胎盤節が並ぶ叢毛胎盤
- 妊娠期間:約150日(約5か月)
- 双子や三つ子を妊娠することが多い
3-3. 妊娠中毒
双子や三つ子を妊娠しためん羊や山羊が、妊娠の末期に、胎子が必要とするブドウ糖の量が急に増えるのに、母体のエネルギーの摂取が追いつかずに起こります。体の脂肪が分解されて低血糖とケトーシスになり、元気の低下、食欲の廃絶、目が見えないような様子、震えなどの神経症状が現れます。肥満や、妊娠末期の栄養不足、寒さなどのストレスが誘因になります。
3-4. 流産の原因
トキソプラズマ、クラミジア(流行性羊流産)、カンピロバクター、ブルセラなどの感染症が流産の原因になります。
4. 馬・豚・めん羊・山羊の繁殖で国家試験に狙われるポイント
- 馬:長日性の季節繁殖、発情期5〜7日、卵胞の大きさで交配の適期を判断、排卵窩、子宮内膜杯とeCG、汎毛胎盤、妊娠約335日、分娩後7〜10日で発情
- 馬の繁殖障害:馬伝染性子宮炎(交配でうつる、子宮内膜炎と一時的な不妊、雄は無症状で保菌)、馬鼻肺炎(妊娠後期の流産)、顆粒膜細胞腫
- 豚:周年繁殖、発情周期21日、発情の持続は平均約50時間、背圧反応、多胎、胚のエストロジェンで妊娠認識、汎毛胎盤、妊娠約114日、離乳後4〜7日で発情
- 豚の繁殖障害:卵巣嚢腫、ゼアラレノン(エストロジェン様作用、外陰部の腫れ)、PRRS、日本脳炎、豚パルボウイルス感染症、オーエスキー病
- めん羊と山羊:短日性の季節繁殖、発情周期はめん羊約17日・山羊約21日、叢毛胎盤、妊娠約150日
- 妊娠中毒:多胎の妊娠末期、低血糖とケトーシス、神経症状
5. 馬・豚・めん羊・山羊の繁殖の確認問題
Q1. 馬で、発情の徴候だけでなく直腸検査や超音波で交配の適期を判断する理由を述べよ。
A. 馬は発情期が5〜7日と長く、排卵は発情期の終わりの1〜2日前に起こるため、発情の徴候だけでは排卵の時期がわかりにくい。卵胞の大きさを確かめ、十分に育った卵胞が排卵する直前に交配する。
Q2. 馬の妊娠で、子宮内膜杯がつくるホルモンと、その働きを答えよ。
A. eCG(馬絨毛性性腺刺激ホルモン)。卵巣に追加の黄体(副黄体)をつくらせ、妊娠を支える。
Q3. 豚の妊娠期間と、分娩後に発情が来る時期を答えよ。
A. 妊娠期間は約114日(3か月3週3日)。授乳中は発情が抑えられ、子豚を離乳すると4〜7日ほどで発情が来る。
Q4. ゼアラレノンが豚に起こす症状と、その理由を述べよ。
A. Fusarium属のカビがつくるゼアラレノンは、エストロジェンに似た作用をもつため、若い雌豚の外陰部が赤く腫れ、発情のような状態、不妊、流産を起こす。
Q5. めん羊の妊娠中毒が起こりやすい条件と、そのしくみを述べよ。
A. 双子や三つ子を妊娠した妊娠末期に起こりやすい。胎子が必要とするブドウ糖の量が急に増えるのに、母体のエネルギーの摂取が追いつかず、体の脂肪が分解されて低血糖とケトーシスになる。
関連コンテンツ
理解度チェック
- 法定伝染病かるた — 馬伝染性子宮炎や豚の伝染病の区分を覚えられます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:繁殖学・産科 — 共通のホルモンの流れと、動物種ごとの繁殖の特徴を整理しています。
- 流れでたどる:性周期と排卵 — GnRHからLHサージ、黄体の退行までを、図をたどって確認できます。
- 自然毒とカビ毒 — ゼアラレノンなどのカビ毒を扱います。
- 分野別まとめ:伝染病学 — 日本脳炎やPRRSなど、繁殖障害を起こす感染症を整理しています。
参考文献
- 獣医繁殖学 文永堂出版
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)