呼吸は「酸素を取り入れて、二酸化炭素を捨てる」こと。そして、どのくらい息をするかは、脳が二酸化炭素の量を見て決めているにゃん!
ふだん何気なくしている呼吸ですが、その中では「空気を出し入れする」「肺で入れかえる」「血液で運ぶ」「体の細胞で入れかえる」という4つの段階が、脳の調節を受けながら続いています。このページでは、専門用語をなるべく使わずに、この一連の流れを図で順番にたどります。
1呼吸の全体の流れ
体の細胞は、酸素を使ってエネルギーをつくり、そのかわりに二酸化炭素を出します。呼吸は、この酸素を細胞まで届け、二酸化炭素を体の外へ捨てるための一連のしくみです。
図1 呼吸の全体の流れ。酸素は外の空気から細胞へ、二酸化炭素は細胞から外の空気へと、逆向きに流れる。
2息を吸うしくみ — 空気を出し入れする
肺は、自分でふくらむことができません。まわりの筋肉が胸の中の空間を広げることで、空気が吸い込まれます。
- 吸うとき:胸とおなかを仕切る筋肉(横隔膜)が縮んで下がり、肋骨のあいだの筋肉が胸を広げる
- 胸の中の空間が広がり、中の圧が外の空気より低くなる
- 圧の高い外から低い肺へ、空気が流れ込む
- 吐くとき:静かに息をしているときは、筋肉がゆるむと胸と肺がもとの大きさに戻り、空気が自然に押し出される
注射器の押し子を引くと、中に空気が入ってくるのと同じにゃ。横隔膜が押し子の役目にゃん!
3肺での交換 — 濃いほうから薄いほうへ
肺の奥には、ぶどうの房のような肺胞(空気の小部屋)がたくさんあり、そのまわりを細い血管(毛細血管)が網のように取り巻いています。
図2 肺胞と血液のあいだの交換。酸素は肺胞から血液へ、二酸化炭素は血液から肺胞へ、どちらも濃いほうから薄いほうへ自然に移る。
- 酸素:吸い込んだばかりの肺胞の空気は酸素が多く、体から戻ってきた血液は酸素が少ない。だから酸素は肺胞から血液へ移る
- 二酸化炭素:体から戻ってきた血液は二酸化炭素が多く、肺胞の空気は少ない。だから二酸化炭素は血液から肺胞へ移り、吐く息で捨てられる
このように、濃いほうから薄いほうへ自然に移ることを拡散といいます。肺胞の壁と血管の壁はとても薄く、肺胞の数はとても多いので、短い時間でたくさんの入れかえができます。
4血液で運ぶ — 酸素と二酸化炭素の乗り物
酸素の運び方
酸素は水に溶けにくいため、そのほとんどは赤血球の中のヘモグロビンという運び役にくっついて運ばれます。ヘモグロビンのうち、酸素がくっついているものの割合を測るのが、指先や舌につけるパルスオキシメーター(SpO₂)です。
ヘモグロビンには、便利な性質があります。
- 肺では、しっかりくっつく:酸素の多い肺では、ヘモグロビンに酸素がたっぷりくっつく
- 働いている体の組織では、手放しやすくなる:二酸化炭素が多い、酸性に傾いている、温度が高いといった、よく働いている組織では、ヘモグロビンが酸素を手放しやすくなる。必要な場所で、必要なだけ酸素を渡せるしくみ
二酸化炭素の運び方
二酸化炭素は、大部分が赤血球の中で水と反応して重炭酸という形に変わり、血液に溶けて運ばれます。この反応は、赤血球の中の反応を速める道具(炭酸脱水酵素)によって一瞬で進みます。一部はヘモグロビンにくっついたり、そのまま血液に溶けたりして運ばれます。
5呼吸の調節 — どのくらい息をするかを決めるしくみ
息の深さや回数は、意識しなくても自動で調節されています。調節は、センサー → 司令塔 → 呼吸の筋肉という流れで行われます。
図3 呼吸の調節のしくみ。センサーが血液や肺の状態を感じ、脳の司令塔が呼吸の筋肉に指令を出す。呼吸が変わると血液の状態が変わり、それをまたセンサーが感じる。
司令塔
脳のいちばん下の部分(延髄と橋、脳幹とも呼ばれる)に、呼吸のリズムをつくる呼吸中枢があります。
3つのセンサー
- 脳のセンサー(中枢化学受容器):延髄の表面にあり、血液の二酸化炭素が増えると反応して、呼吸を増やす。ふだんの呼吸の調節でいちばん大きな役割を担う
- 首と胸の動脈のセンサー(頸動脈小体・大動脈小体):血液の酸素が大きく下がったときに反応して、呼吸を増やす
- 肺の伸び具合のセンサー:肺が膨らみすぎると、迷走神経を通じて司令塔に知らせ、吸うのを止める(ヘーリング・ブロイエル反射)
息を止めていると苦しくなるのは、酸素が足りないからではなく、二酸化炭素がたまるからにゃ。ふだんの呼吸は、酸素ではなく二酸化炭素で調節されているにゃん!
運動すると、筋肉がたくさんの二酸化炭素を出すため、脳のセンサーが反応して呼吸が深く速くなります。
6呼吸と血液の酸性・アルカリ性
二酸化炭素は、血液の中で酸として働きます。そのため、呼吸は血液の酸性・アルカリ性のバランスにも関わっています。
- 息が足りない(麻酔や肺の病気など):二酸化炭素がたまり、血液が酸性に傾く(呼吸性アシドーシス)
- 息をしすぎる(痛みや興奮、酸素不足など):二酸化炭素が減りすぎて、血液がアルカリ性に傾く(呼吸性アルカローシス)
- ほかの原因で血液が酸性に傾いたとき(重い下痢や糖尿病など):呼吸を増やして二酸化炭素を吐き出し、酸性を和らげようとする
呼吸によるバランスのずれは、腎臓が時間をかけて補います。
7動物ならではの呼吸
- 鳥:肺のほかに気嚢という空気の袋をもち、ふいごのように働かせて、肺の中を空気が一方向に流れる。横隔膜はない。入れかえの効率がとても高い
- 馬:口ではほとんど呼吸できず、鼻で呼吸する動物。そのため、鼻やのどの病気が呼吸に大きく響く
- 犬:暑いときのパンティング(口を開けた速く浅い呼吸)は、空気の通り道で水分を蒸発させて体の熱を逃がすためのもの。浅い呼吸なので、肺胞での入れかえは増えすぎない
8国家試験ではここが問われる
- ふだんの呼吸は二酸化炭素で調節され、その主なセンサーが延髄の中枢化学受容器であること
- 頸動脈小体は、血液の酸素が大きく下がったときに働くこと
- 肺が膨らみすぎると吸うのを止めるヘーリング・ブロイエル反射(迷走神経)
- 二酸化炭素は酸素より拡散しやすいこと、二酸化炭素の多くは重炭酸として運ばれること
- 働いている組織でヘモグロビンが酸素を手放しやすくなること、一酸化炭素中毒のしくみ
- 鳥の気嚢と一方向の空気の流れ
呼吸器の病気は呼吸器疾患の分野別まとめ、麻酔中の呼吸の見方は麻酔のモニタリングと合併症の解説で扱っています。
9ミニテスト(8問)
0 / 8 問正解選ぶとすぐに正解と解説が出ます。迷ったら、図に戻って流れをたどってみてください。
Q1.息を吸うとき、空気が肺に入ってくる理由はどれ?
正解:胸の中の圧が外より低くなるから 肺は自分でふくらめません。横隔膜が縮んで下がり、胸が広がることで、外の空気が流れ込みます。
Q2.肺胞と血液のあいだで、酸素と二酸化炭素が入れかわるしくみはどれ?
正解:拡散 酸素は酸素の多い肺胞から血液へ、二酸化炭素は二酸化炭素の多い血液から肺胞へ、自然に移ります。
Q3.肺水腫などの肺の病気で、先に足りなくなりやすいのはどれ?
正解:酸素を取り入れる力 二酸化炭素は酸素よりずっと通り抜けやすいため、壁が厚くなると先に酸素が入りにくくなります。
Q4.血液の中で、酸素のほとんどを運んでいるものはどれ?
正解:ヘモグロビン 酸素は水に溶けにくいため、ほとんどが赤血球の中のヘモグロビンにくっついて運ばれます。
Q5.二酸化炭素の多くは、血液の中でどんな形で運ばれる?
正解:重炭酸 赤血球の中の反応を速める道具(炭酸脱水酵素)によって、水と反応して重炭酸に変わります。
Q6.ふだんの呼吸の深さや回数を決めている、いちばん大きな手がかりはどれ?
正解:血液の二酸化炭素 延髄の表面の脳のセンサーが二酸化炭素の増加を感じて、呼吸を増やします。息を止めると苦しくなるのも、二酸化炭素がたまるためです。
Q7.血液の酸素が大きく下がったときに反応して、呼吸を増やすセンサーはどれ?
正解:頸動脈小体・大動脈小体 首と胸の大きな動脈にあるセンサーで、酸素が大きく下がったときに働きます。
Q8.鳥の呼吸の特徴として正しいのはどれ?
正解:気嚢と一方向の流れ 鳥には横隔膜がなく、気嚢のおかげで肺の中を空気が一方向に流れるため、入れかえの効率がとても高くなります。
10もっとくわしく知りたいとき
- 分野別まとめ:呼吸器疾患 — 呼吸の音と様式から悪い場所を当てる考え方
- 流れでたどる:酸塩基の調節 — 緩衝・肺・腎臓による調節と4つの乱れを、図をたどって確認できます。
- 流れでたどる:酸素が細胞に届くまで — 換気からミトコンドリアまで、酸素が届く流れを図で確認できます。
- 麻酔のモニタリングと合併症 — 酸素化と換気の見分け方(SpO₂とカプノグラフ)
- 誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫 — 肺の病気でガス交換が悪くなるしくみ
- 動物種による違い — 鳥の気嚢など、動物ごとの体のつくり
- 超簡単まとめ:麻酔器と回路のきほん