基礎獣医学 > 動物の中毒
動物の中毒は、家庭の食べ物や薬、農薬や殺鼠剤、牧草や植物、金属など、身のまわりのあらゆるものが原因になります。国家試験では、タマネギ中毒の尿の写真、銅や亜鉛、硝酸塩、キョウチクトウなど、原因と症状の組み合わせが繰り返し問われています。
中毒の種類はとても多いので、本記事では「体のどこが傷むか(血液・出血・神経・腎臓・肝臓と血糖・心臓)」で整理しました。症状から原因を逆にたどれるようにするためです。
過去問分析
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 血液:貧血の柴犬の尿の写真からタマネギ中毒を答える問題、亜鉛、銅
- 植物:キョウチクトウの有毒成分(オレアンドリン)、ワラビ
- 家畜:硝酸塩、銅の中毒と欠乏
- 薬:猫に使えない薬(アセトアミノフェン、シスプラチンなど)
この記事で押さえること
- 中毒の起こりやすさが動物種で違う理由(猫、犬、反芻動物、馬)
- 赤血球を壊す中毒(タマネギ、亜鉛、銅、アセトアミノフェン)と、血液が酸素を運べなくなる硝酸塩中毒
- 出血させる殺鼠剤、神経を侵す有機リン・鉛・ペルメトリン
- 腎臓を侵すユリ・ブドウ・エチレングリコール、血糖を下げるキシリトール
- 心臓を侵すキョウチクトウ・イチイ・モネンシン
1. 動物種によって中毒の起こりやすさが違う
- 猫:肝臓で薬などを水に溶けやすい形に変えて捨てる働き(グルクロン酸抱合)が弱い。そのため、アセトアミノフェン、一部の鎮痛薬、ペルメトリンなどが体に残って中毒を起こしやすい(超簡単まとめ「薬物代謝と生体関門」)
- 犬:チョコレートの成分(テオブロミン)を分解するのが遅い。コリーなどでは、脳から薬を追い出すしくみの遺伝子の違いで、イベルメクチンなどの中毒を起こしやすい
- 牛・めん羊(反芻動物):第一胃の微生物が、飼料の中の物質を別の毒に変えることがある(硝酸塩 → 亜硝酸塩など)。めん羊は銅がたまりやすい
- 馬:牛や鶏の飼料に使われる薬(モネンシン)にとても弱い
2. 赤血球を壊す・酸素を運べなくする中毒
- タマネギ中毒(犬・猫):タマネギ、ネギ、ニンニクなどに含まれる成分が、赤血球の中のヘモグロビンを傷つける。傷んだヘモグロビンが固まった粒(ハインツ小体)ができた赤血球は壊され、溶血性の貧血と、壊れた赤血球から出たヘモグロビンによる赤い尿(ヘモグロビン尿)が起こる。加熱しても毒性は消えない。柴犬などでは起こりやすい性質の赤血球をもつ個体がいる
- 亜鉛中毒(犬):硬貨やナットなど、亜鉛を含む金属を飲み込むと、胃酸で溶けて吸収され、溶血を起こす
- 銅中毒(めん羊):めん羊は肝臓に銅をため込みやすい。ためた銅が、ストレスなどをきっかけに一気に血液に放出されると、急な溶血とヘモグロビン尿、黄疸を起こす
- アセトアミノフェン中毒(猫):猫は処理できず、ヘモグロビンが酸素を運べない形(メトヘモグロビン)に変わり、粘膜が茶色っぽくなり、顔や前肢がむくむ。ハインツ小体もできる
- 硝酸塩中毒(牛):硝酸塩を多く含む牧草や水を食べると、第一胃で亜硝酸塩に変わって吸収され、ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変える。血液がチョコレート色になり、酸素を運べずに呼吸困難で急死する。メチレンブルーはメトヘモグロビンを元に戻す
3. 出血させる中毒
- 殺鼠剤(ワルファリンの仲間):血液を固める凝固因子の一部はビタミンKを使ってつくられる。この薬はビタミンKを再利用できなくするため、凝固因子がつくれなくなり、数日たってから体のあちこちで出血する。ビタミンKを補うと回復に向かう
- ワラビ中毒(牛):骨髄が傷み、血小板と白血球が減って出血する。長く食べ続けると膀胱の腫瘍ができる。馬では、ワラビに含まれる酵素がビタミンB1を壊して神経の症状を起こす(発がんのしくみの解説)
4. 神経を侵す中毒
- 有機リン・カーバメート(殺虫剤):神経の信号を伝えたアセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)を働かなくする。アセチルコリンがたまり続け、よだれ、縮瞳、下痢、筋肉のぴくつきが起こる。アトロピンで症状の一部を抑える(自律神経系と受容体の解説)
- ペルメトリン(猫):犬用のノミ駆除薬を猫に使うと、震えやけいれんが起こる。猫はこの薬を処理できない
- メタアルデヒド(ナメクジ駆除剤):けいれんと高体温を起こす
- チョコレート(犬):テオブロミンが、興奮、頻脈と不整脈、けいれんを起こす。ビターチョコレートやココアほど危険
- 鉛中毒:牛では古いバッテリーやペンキをなめて起こり、目が見えなくなる、頭を押しつけるなどの神経の症状を示す。犬では嘔吐などの消化器の症状と神経の症状。赤血球に青い点々(好塩基性斑点)がみられる
5. 腎臓を侵す中毒
- ユリ(猫):花、葉、花粉、花瓶の水まで、ごく少量で急性の腎障害を起こす
- ブドウ・レーズン(犬):急性の腎障害を起こす。食べた量と重さが比例しないことがある
- エチレングリコール(不凍液):甘い味で飲んでしまう。体の中で代謝されてできた物質が、腎臓でシュウ酸カルシウムの結晶になり、急性の腎障害を起こす。尿にこの結晶がみられる
6. 肝臓・血糖を侵す中毒
- キシリトール(犬):ガムなどの甘味料。犬では膵臓からインスリンが大量に出て、急な低血糖を起こす。肝臓の障害も起こしうる
- アフラトキシン:カビ毒。肝臓の障害と肝臓の癌を起こす(自然毒とカビ毒の解説)
7. 心臓を侵す中毒
- キョウチクトウ:葉や枝にオレアンドリンという、心臓の動きを強める薬(ジギタリス)に似た成分を含み、不整脈を起こす。庭木や街路樹として身近な植物
- イチイ:葉と種にタキシンを含み、心臓の動きを止めて急死させる。牛や馬が剪定した枝を食べて起こる
- モネンシン(馬):牛や鶏の飼料に加えられる薬(イオノフォア)。馬はとても弱く、牛用の飼料を食べると心筋が傷んで死亡する
8. 足りなくても病気になる — 欠乏症
- 銅欠乏症(牛・めん羊):被毛の色が抜ける、貧血、子羊の後肢の麻痺(脊髄の病変)。飼料のモリブデンや硫黄が多いと、銅の吸収が妨げられて起こる
- セレン・ビタミンE欠乏症:子牛や子羊の筋肉が白く変性する白筋症。心筋が侵されると急死する
9. 動物の中毒で国家試験に狙われるポイント
- 動物種差:猫はグルクロン酸抱合が弱い(アセトアミノフェン・ペルメトリン)、犬はテオブロミンの分解が遅い、めん羊は銅がたまりやすい、馬はモネンシンに弱い、反芻動物は第一胃で硝酸塩が亜硝酸塩に
- 溶血:タマネギ(ハインツ小体、ヘモグロビン尿、加熱しても毒性あり)、亜鉛(硬貨)、銅(めん羊)
- メトヘモグロビン:硝酸塩(牛、チョコレート色の血液、メチレンブルー)、アセトアミノフェン(猫)
- 出血:ワルファリン系殺鼠剤(ビタミンKの再利用を阻害)、ワラビ(骨髄の障害)
- 神経:有機リン(コリンエステラーゼ阻害、よだれ・縮瞳、アトロピン)、鉛(好塩基性斑点)、チョコレート、メタアルデヒド
- 腎臓:ユリ(猫)、ブドウ(犬)、エチレングリコール(シュウ酸カルシウム結晶)
- 血糖:キシリトール(犬、インスリンの大量放出で低血糖)
- 心臓:キョウチクトウ(オレアンドリン)、イチイ(タキシン)、モネンシン(馬)
10. 動物の中毒の確認問題
Q1. タマネギ中毒の犬で、赤い尿がみられる理由を述べよ。
A. タマネギの成分が赤血球のヘモグロビンを傷つけてハインツ小体をつくり、その赤血球が壊されて(溶血)、出てきたヘモグロビンが尿に出るため(ヘモグロビン尿)。
Q2. 硝酸塩を多く含む牧草を食べた牛で、血液がチョコレート色になる理由を述べよ。
A. 硝酸塩が第一胃で亜硝酸塩に変わって吸収され、ヘモグロビンを酸素を運べないメトヘモグロビンに変えるため。
Q3. ワルファリン系の殺鼠剤で出血が起こるしくみと、回復に使われるものを答えよ。
A. ビタミンKを再利用できなくし、ビタミンKを使ってつくられる凝固因子がつくれなくなるため出血する。ビタミンKを補うと回復に向かう。
Q4. 有機リン系殺虫剤の中毒で、よだれや縮瞳が起こる理由を述べよ。
A. アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼが働かなくなり、アセチルコリンがたまり続けて副交感神経の作用が強く出るため。
Q5. 牛用の飼料を食べた馬が、心臓の障害で死亡した。考えられる原因物質を答えよ。
A. モネンシン。牛や鶏の飼料に加えられるイオノフォアで、馬はとても弱く、心筋が傷む。
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参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)