臨床獣医学 > 内科 > 血液・免疫
血液・免疫分野は、顕微鏡での読影と検査数値の解釈がそのまま得点になるという点で、国家試験のなかでも特異な位置にあります。疾患名を覚えるより先に「この塗抹像は何を意味するか」「この凝固検査の組み合わせはどの因子を指すか」を読めるようになることが、最短の対策です。
診断(血液塗抹・凝固検査)から治療(免疫抑制薬・造血因子)まで幅広く、かつ基礎・応用・実地の全セクションにまたがって出題されます。本ページでは分野全体の出題傾向を整理したうえで、塗抹所見の読み分け、赤血球指数による貧血の分類、免疫学的検査、造血器腫瘍という、各テーマ記事では扱いきれない横断的な内容を解説します。
内科学全体が試験の約15〜20%を占めるなかで、血液・免疫疾患は実地試験での得点源となる分野です。末梢血塗抹の読影と凝固検査データの解釈は、対策の有無が結果に直結します。
本ページの出題傾向は、第73回〜第77回獣医師国家試験を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 試験区分別の出題傾向
| 試験区分 | 出題数の目安 | 問われる内容 |
|---|---|---|
| 必須問題 (50問中) | 1〜3問 | 赤血球の造血因子(エリスロポエチン)、血漿中で最も多い免疫グロブリン、一次止血異常を生じる疾患などの基礎知識 |
| 学説試験A・B (160問中) | 5〜8問 | 学説A:抗体産生細胞、アレルギーの型、補体の働き、血液型、サイトカインの臨床応用 学説B:IMHAの診断指標、血友病の病態、免疫介在性多発性関節炎、非再生性貧血の原因疾患 |
| 実地試験C・D (120問中) | 8〜12問 | 末梢血塗抹の読影(球状赤血球、自己凝集、バベシア原虫、ハインツ小体)、骨髄検査の解釈、止血検査データに基づく診断 |
本ページは臨床としての血液・免疫を扱います。補体、アレルギーのⅠ〜Ⅳ型、抗体のクラスと機能、自然免疫と獲得免疫といった免疫学の基礎は、免疫学のページで体系的に解説しています。
2. 末梢血塗抹の読影
実地試験でもっとも問われる領域です。所見と病態の対応を一覧で押さえてください。
| 所見 | 意味する病態 |
|---|---|
| 球状赤血球 | 免疫介在性溶血(IMHA、バベシア症)。中心蒼白部を欠き小型で濃染する。猫では判定困難 |
| 自己凝集 | 免疫介在性溶血。生理食塩水で分散しないことで連銭形成と区別する |
| ハインツ小体 | 酸化的損傷(タマネギ・ニンニク、猫のアセトアミノフェン中毒、亜鉛中毒)。猫は正常でも少数もつ |
| 多染性赤血球・ 有核赤血球 | 再生性の指標。ただし有核赤血球は鉛中毒や骨髄障害でも出現する |
| 破砕赤血球 | 微小血管の物理的障害。DIC、血管肉腫、心糸状虫症 |
| 標的赤血球 | 肝疾患、鉄欠乏、再生性貧血 |
| 赤血球内の原虫 | バベシア(小型は単一のリング状、大型は洋梨形2個) |
| 好中球の核左方移動 | 炎症・感染。重度では好中球減少に転じる |
| 好酸球・リンパ球の減少 | ストレスリューコグラム。逆に重篤なのに減少がなければアジソン病を疑う |
3. 赤血球指数による貧血の分類
貧血を見たとき、まず網赤血球数で再生性か非再生性かを判断します。これに加えてMCV(赤血球の大きさ)とMCHC(ヘモグロビン濃度)による形態学的分類を重ねると、原因の絞り込みが一段と速くなります。
図:MCVとMCHCによる貧血の形態学的分類。網赤血球が多い再生性貧血では未熟で大型・ヘモグロビン濃度の低い赤血球が増えるため大球性低色素性を示し、鉄欠乏ではヘモグロビン合成が滞って小球性低色素性となる。
3-1. 鉄欠乏性貧血
犬猫では栄養性の鉄欠乏はまれで、そのほとんどが慢性出血によるものです。したがって「小球性低色素性貧血を見たら出血源を探す」という手順になります。
原因としては、消化管出血(腫瘍、潰瘍、寄生虫)、幼若動物におけるノミやシラミの重度寄生、尿路からの慢性出血が挙げられます。血清鉄の低下と血小板増多を伴うことがあります。
4. 免疫学的検査
| 検査 | 検出するもの | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 直接クームス試験 | 赤血球に結合している抗体・補体 | IMHAの診断。自己凝集が明らかなら実施不要 |
| 間接クームス試験 | 血清中の遊離した抗体 | 輸血前検査などに用いる |
| 抗核抗体(ANA) | 細胞核成分に対する自己抗体 | 全身性エリテマトーデス(SLE)の診断指標 |
| 血液交差適合試験 | ドナーとレシピエントの適合性 | 輸血反応の予防 |
- 主試験:ドナーの赤血球+レシピエントの血漿。輸血される赤血球が壊されないかを見るもので、より重要です。
- 副試験:レシピエントの赤血球+ドナーの血漿。
どちらがどちらか迷ったら、「主試験は輸血する側(ドナー)の赤血球を守る検査」と押さえてください。なお自己凝集がある症例では判定が困難になります。
5. 造血器腫瘍
5-1. リンパ腫
犬でもっとも一般的な造血器腫瘍で、多中心型が最多です。無痛性の全身性リンパ節腫大として現れます。PTH関連蛋白の産生による高カルシウム血症を伴うことがあり、これが発見の契機となる場合もあります。猫では消化器型の割合が高くなります。
5-2. 白血病の分類
| 骨髄性 | リンパ性 | |
|---|---|---|
| 急性 (芽球が主体) |
AML(急性骨髄性白血病) | ALL(急性リンパ性白血病) |
| 慢性 (成熟細胞が主体) |
CML(慢性骨髄性白血病) | CLL(慢性リンパ性白血病) |
急性と慢性を分けるのは、増殖している細胞の成熟度です。急性白血病では未熟な芽球が骨髄を占拠するため汎血球減少をきたし、進行が速く予後は不良です。慢性白血病では成熟した細胞が増加し、進行は緩徐で、CLLは無症状のまま健康診断で発見されることもあります。
5-3. 赤芽球癆
赤芽球系のみが選択的に障害される病態です。重度の非再生性貧血を呈する一方、白血球系と血小板系は保たれる点が特徴で、汎血球減少をきたす骨髄疾患との鑑別点になります。多くは免疫介在性です。
6. そのほかの重要疾患
6-1. 免疫介在性多発性関節炎(IMPA)
免疫複合体(Ⅲ型アレルギー)が関節滑膜に沈着して炎症を起こす疾患です。複数の関節に生じる跛行、こわばり、発熱、元気消失がみられ、跛行部位が日によって移動することもあります。
診断の決め手は関節液検査です。非敗血症性の好中球増加(細菌は認められない)が確認されます。複数の関節から採取することが重要です。
6-2. 播種性血管内凝固(DIC)
基礎疾患により凝固系が全身性に活性化され、微小血栓が多発したのち凝固因子と血小板が消費されて出血傾向に転じる病態です。
検査では血小板減少、PT・APTTの延長、FDP・Dダイマーの上昇、アンチトロンビンの低下がみられ、塗抹では破砕赤血球が観察されます。治療は基礎疾患の治療が最優先であり、DIC単独を治療する発想では改善しません。
7. 必須問題で問われる基礎知識
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| エリスロポエチン | 腎臓で産生される造血因子。低酸素で分泌が増加する。慢性腎臓病で非再生性貧血が生じるのはこのため |
| 抗体産生細胞 | 形質細胞(B細胞が分化したもの) |
| 血漿中で最も多い 免疫グロブリン | IgG。分泌液・初乳に多いのはIgA、感染初期に最初に産生されるのはIgM(五量体)、Ⅰ型アレルギーに関与するのはIgE |
| 移行抗体 | 犬猫は胎盤を介した移行が少なく、初乳からの吸収が主体。腸管での吸収は生後まもない時期に限られる |
| 一次止血異常を 生じる疾患 | フォン・ヴィレブランド病、血小板減少症、血小板機能異常症 |
8. 重要テーマ別の詳細解説
貧血免疫介在性溶血性貧血(IMHA)
犬でもっとも一般的な免疫介在性疾患です。血管外溶血(IgG)と血管内溶血(IgM+補体)の違い、球状赤血球が形成される機序、自己凝集と連銭形成を生理食塩水で鑑別する方法を塗抹の模式図つきで解説しています。主要死因である血栓塞栓症への対応も扱います。
貧血バベシア症
マダニが媒介する赤血球内寄生原虫による溶血性疾患です。最大の論点はIMHAと同一の免疫学的所見を示すという点にあり、鑑別できるのは原虫の検出だけです。小型と大型の塗抹像の違いを図解し、日本で主要な B. gibsoni にイミドカルブが効かないという治療上の要点まで扱います。
止血一次止血(vWD・血小板減少症)
血小板が損傷部位に栓をつくる過程です。粘着(GP Ib・vWF)と凝集(GP IIb/IIIa・フィブリノーゲン)の3段階を図解し、どの疾患がどの段階で破綻するかを対応させました。点状出血が一次止血異常を示す理由、DDAVPが1型に有効で3型に無効である理由も解説しています。
止血二次止血(血友病A・B)
凝固因子がフィブリンを形成して血栓を安定化する過程です。凝固カスケードとPT・APTTの対応を図解し、「PTのみ延長なら第VII因子」という絞り込みの論理を扱います。殺鼠剤中毒でPTが先に延長する理由、クリオプレシピテートが血友病Bに適さない理由も解説しています。
9. 学習教材
解説ブック
- 犬と猫の血液検査項目 — 各項目の意味と解釈
- 血液塗抹細胞模式図 — 各種細胞の形態を図で確認
- 犬と猫の赤血球生成 — 造血の生理
- 犬と猫の止血凝固 — 一次止血・二次止血・線溶の全体像
- 犬と猫の黄疸 — 溶血性・肝性・閉塞性の鑑別
- 犬と猫の腎臓 — 赤血球生成編 — エリスロポエチンと腎性貧血
準備中のコンテンツ
- 問題集:血液・免疫30問
- 推理型問題:貧血の鑑別/止血・凝固異常の鑑別
10. 推奨する学習順序
- 読影の型を作る:本ページ第2章の塗抹所見一覧と第3章の赤血球指数。実地試験の得点はここで決まります
- 貧血を攻略する:IMHA → バベシア症の順に読みます。両者は鑑別の関係にあるため必ず対で読んでください
- 止血を攻略する:一次止血 → 二次止血の順に読みます。出血様式と検査の対応が一続きで理解できます
- 横断知識を補う:本ページ第4〜7章で免疫学的検査、造血器腫瘍、必須問題の基礎知識を確認します
- 演習する:ジグソーパズルクイズと問題集で定着を測ります
免疫の基礎(補体、アレルギーのⅠ〜Ⅳ型、抗体のクラス、自然免疫と獲得免疫)は免疫学のページで扱っています。内科学全体の出題傾向と検査値の読み方は臨床獣医学 > 内科のページをご覧ください。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 犬と猫の血液アトラス 緑書房
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)