臨床獣医学 > 内科 > 神経 > 脳のMRIと脳腫瘍・脳炎
頭部のMRI像を示して、脳腫瘍や脳炎を見分けさせる問題は、実地試験で繰り返し出題されています。MRIには撮り方の違う複数の像があり、「どの像で何が白く、何が黒く写るか」がわかれば、病変がどこにあり、どんな性質かを読み取れます。
本記事では、まずMRIの4つの像の基本を押さえ、次に脳の外にできる腫瘍か、脳の中にできる腫瘍かという軸で腫瘍を整理し、最後に小型犬に多い脳炎を扱います。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 脳腫瘍:犬・猫の髄膜腫、脈絡叢乳頭腫、下垂体腫瘍を、T1・T2・FLAIR・造影T1強調像から見分ける問題
- 脳炎:パグやマルチーズに多い壊死性髄膜脳炎(NME)、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)
- MRIの基本:脳脊髄液がT1強調像で低信号、T2強調像で高信号になること、造影T1強調像での脳腫瘍の増強
- T1・T2・FLAIR・造影T1の4つの像の違い
- 造影で白くなるのは血液脳関門が壊れた場所であること
- 腫瘍を脳の外(軸外)と脳の中(軸内)で分けること
- 髄膜腫の典型的な所見(広く接する、均一に強く造影、硬膜尾徴候)
- NMEとGMEの好発犬種・病変の場所・病理の違い
1. MRIの4つの像
- T1強調像:脳脊髄液(水)は低信号(黒)、脂肪は高信号(白)。脳の形や解剖を見やすい
- T2強調像:脳脊髄液(水)と浮腫は高信号(白)。多くの病変は水分が増えて白く写るため、病変の広がりをとらえやすい
- FLAIR像:T2強調像から脳脊髄液の信号だけを消した像。脳脊髄液は黒く、浮腫や病変は白いまま残るため、脳室や脳溝のそばの病変が見やすい
- 造影T1強調像:ガドリニウム造影剤を注射して撮るT1強調像。正常な脳では造影剤は血液脳関門に阻まれて入らないが、血液脳関門が壊れた場所(腫瘍、炎症)では造影剤が漏れ出して白く増強される。もともと血液脳関門のない下垂体や脈絡叢、硬膜は正常でも造影される
脳室の脳脊髄液が黒ければT1かFLAIR、白ければT2です。さらに、T2に似て病変は白いのに脳室だけ黒い像がFLAIRです。問題の画像がどの像かを先に見分けると、読み違いが防げます。
2. 脳腫瘍 — 脳の外か、中か
2-1. 軸外腫瘍(脳の外にできる腫瘍)
- 髄膜腫:犬と猫で最も多い原発性の脳腫瘍で、高齢に多い。脳を包む髄膜から発生するため脳の表面から内側へ押すように育つ。MRIでは、頭蓋骨の内面に広く接し、境界がはっきりしていて、造影T1強調像で均一に強く増強される。腫瘍の端から硬膜が尾のように増強される硬膜尾徴候が特徴。猫では多発することや、接する頭蓋骨が厚くなることがある
- 下垂体腫瘍:脳の底、トルコ鞍の中の下垂体から発生し、大きくなると上方の視床下部を押し上げる。ACTHを過剰に分泌して下垂体依存性の副腎皮質機能亢進症(犬のクッシング症候群の解説)を起こすものがあり、大きくなると沈うつや旋回などの神経症状も現れる
2-2. 脳室内の腫瘍
- 脈絡叢乳頭腫:脳脊髄液をつくる脈絡叢から発生し、脳室の中(犬では第4脳室に多い)にできる。造影で強く増強される。脳脊髄液の流れをふさいだり産生を増やしたりして、水頭症を伴いやすい
2-3. 軸内腫瘍(脳の中にできる腫瘍)
- 神経膠腫(グリオーマ):脳の実質の中の神経膠細胞から発生する。ボクサー、ボストン・テリア、ブルドッグなどの短頭種に多い。脳の中に埋もれるように育ち、造影のされ方は不均一だったり、輪状だったりする
髄膜腫は脳の外から、神経膠腫は脳の中から育ちます。頭蓋骨の内面に広く接して均一に造影され、硬膜尾徴候があれば髄膜腫、脳の実質の中にあって造影が不均一なら神経膠腫を考えます。画像問題では、まず腫瘍が脳のどこから育っているかを見てください。
3. 脳炎 — 小型犬に多い原因不明の髄膜脳炎
感染が見つからない炎症性の脳疾患が、若齢〜中年の小型犬に多く起こります。免疫の異常が関わると考えられており、まとめて「原因不明の髄膜脳(脊髄)炎」とも呼ばれます。
3-1. 壊死性髄膜脳炎(NME)
- 好発:パグ、マルチーズ、チワワ、ポメラニアンなどの若い小型犬。パグでは「パグ脳炎」とも呼ばれる
- 病変の場所:大脳の皮質と、そのすぐ下の白質。左右非対称に広がる
- 病理:非化膿性の髄膜脳炎に加えて、脳の実質が壊死し、空洞になる
- 症状:大脳の病変なので、てんかん発作、旋回、行動の変化、視覚の障害
- MRI:大脳にT2強調像・FLAIR像で高信号の病変。灰白質と白質の境目がぼやけ、壊死した部分は空洞として写る
ヨークシャー・テリアやフレンチ・ブルドッグでは、主に大脳の白質と脳幹を侵す壊死性白質脳炎(NLE)という似た病気が知られています。
3-2. 肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)
- 好発:若齢〜中年の小型犬(トイ種など)
- 病理:血管のまわりにマクロファージとリンパ球が袖のように集まる肉芽腫性の病変(囲管性細胞浸潤)
- 病型:病変が脳や脊髄の各所に散らばる播種型、ひとつの腫瘤のようになる局所型(腫瘍と紛らわしい)、視神経を侵す眼型
- 病変の場所:脳幹、小脳、脊髄にも起こる。そのため症状は多彩
3-3. 脳脊髄液検査
NMEもGMEも、脳脊髄液では単核球(リンパ球や単球)が増え、タンパク質が上昇します。感染症や腫瘍との区別には、MRI、脳脊髄液検査、感染症の検査を組み合わせます。
4. 脳のMRIと脳腫瘍・脳炎で国家試験に狙われるポイント
- MRIの像:脳脊髄液はT1で黒、T2で白、FLAIRで黒(病変は白いまま)
- 造影:血液脳関門が壊れた場所が白く増強される
- 髄膜腫:最も多い原発性脳腫瘍。軸外、広く接する、均一に強く造影、硬膜尾徴候。猫では多発や頭蓋骨の肥厚
- 脈絡叢乳頭腫:脳室内(犬では第4脳室)、強い造影、水頭症
- 下垂体腫瘍:トルコ鞍、下垂体依存性の副腎皮質機能亢進症、神経症状
- 神経膠腫:軸内、短頭種に多い、不均一な造影
- NME:パグ・マルチーズ、大脳、壊死と空洞化、発作
- GME:小型犬、血管周囲の肉芽腫性病変、播種型・局所型・眼型
5. 脳のMRIと脳腫瘍・脳炎の確認問題
Q1. 頭部MRIで、脳室の脳脊髄液が黒く、大脳の病変が白く写っている。この像はT2強調像とFLAIR像のどちらか。理由とともに答えよ。
A. FLAIR像。T2強調像では脳脊髄液も高信号(白)に写るが、FLAIR像は脳脊髄液の信号だけを消しているため、脳室は黒く、病変は白いまま残る。
Q2. 造影T1強調像で脳腫瘍が白く増強される理由を述べよ。
A. 正常な脳では造影剤は血液脳関門に阻まれて脳の組織に入らないが、腫瘍では血液脳関門が壊れているため、造影剤が組織へ漏れ出して増強されるため。
Q3. 高齢の猫の頭部MRIで、頭蓋骨の内面に広く接し、造影T1強調像で均一に強く増強され、硬膜尾徴候を伴う腫瘤がみられた。最も考えられる腫瘍は何か。
A. 髄膜腫。脳の外(髄膜)から発生する軸外腫瘍で、犬と猫で最も多い原発性の脳腫瘍である。
Q4. 脈絡叢乳頭腫で水頭症を伴いやすい理由を述べよ。
A. 脳脊髄液をつくる脈絡叢から脳室の中に発生するため、脳脊髄液の流れをふさいだり、産生を増やしたりして、脳室に脳脊髄液がたまりやすくなるため。
Q5. 若いパグがてんかん発作を繰り返し、MRIで大脳に非対称の病変と空洞がみられた。考えられる疾患名と、その病理の特徴を述べよ。
A. 壊死性髄膜脳炎(NME)。大脳の皮質とその下の白質を中心とした非化膿性の髄膜脳炎で、脳の実質が壊死して空洞になるのが特徴である。
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参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)