臨床獣医学 > 腫瘍 > 造血系の腫瘍
造血系の腫瘍は、リンパ球、骨髄の血液細胞、形質細胞といった、血液をつくる細胞から生まれる腫瘍です。なかでもリンパ腫は、過去5回の国家試験で選択肢を含めて29問に登場した、最も多く問われている腫瘍です。
本記事では、腫瘍が「どこで増えるか(リンパ節か、骨髄か)」と「どの細胞が増えるか」を軸に、リンパ腫、白血病、形質細胞の腫瘍、そして牛のリンパ腫を整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- リンパ腫:細胞診や画像から診断させる症例問題、縦隔型の猫のリンパ腫
- 白血病:急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病の血液像
- 牛:牛伝染性リンパ腫
- 形質細胞:ラッセル小体をもつ細胞
- リンパ腫と白血病の違い(リンパ節などの固形の腫瘤か、骨髄と血液か)
- 犬と猫のリンパ腫の解剖学的な型と、それぞれの特徴
- リンパ腫の細胞診の見方と、臨床病期
- 白血病の急性と慢性、骨髄性とリンパ球性
- 多発性骨髄腫のMタンパク、ベンス・ジョーンズタンパク、骨の病変
- 牛のリンパ腫の地方病型(BLV)と散発型
1. リンパ腫と白血病の違い
- リンパ腫:腫瘍化したリンパ球が、リンパ節や臓器で塊(固形の腫瘤)をつくる
- 白血病:腫瘍化した血液細胞が骨髄で増え、血液中にあふれ出る
リンパ腫が進んで骨髄に広がると、血液中にも腫瘍細胞が出てきます。どちらから始まったかで呼び方が変わります。
2. 犬と猫のリンパ腫
2-1. 解剖学的な型
- 多中心型:犬で最も多い。全身の体表リンパ節が、痛みを伴わずに左右対称に大きくなる。中高齢の犬に多い
- 縦隔型:前縦隔のリンパ節や胸腺にできる。T細胞のものが多く、犬では高カルシウム血症を伴いやすい。猫では、猫白血病ウイルス(FeLV)に関連して若い猫に起こるのが典型。胸水と呼吸困難を起こす
- 消化器型:猫で最も多い。高齢の猫に多く、腸管の壁が厚くなり、嘔吐・下痢・体重減少を起こす
- 皮膚型:表皮に入り込むT細胞の腫瘍(上皮向性リンパ腫)が代表(皮膚の腫瘍の解説)
- 節外型:鼻腔、腎臓、眼、神経など、リンパ節以外の臓器にできる。猫では鼻腔が多い
2-2. 免疫表現型
腫瘍がB細胞とT細胞のどちらに由来するかを、免疫染色や遺伝子の検査で調べます。犬のリンパ腫はB細胞性が多く、T細胞性は高カルシウム血症を伴いやすく、一般に経過が悪いとされます。
2-3. 細胞診と臨床病期
腫れたリンパ節を細い針で吸引すると、大型で未熟なリンパ球(核が好中球の2倍以上の大きさで、核小体が目立つ)が大部分を占めます。正常なリンパ節や反応性の腫れでは、小型の成熟したリンパ球が中心で、いろいろな細胞がまじります。
病期は、腫瘍の広がりで次のように分けます。
- I期:1つのリンパ節(またはリンパ組織)に限られる
- II期:体の一部の複数のリンパ節
- III期:全身のリンパ節
- IV期:肝臓や脾臓に及ぶ
- V期:骨髄や血液、そのほかの臓器に及ぶ
それぞれ、全身症状がないものをa、発熱や体重減少などの症状があるものをbとします。
3. 白血病
3-1. 急性と慢性
- 急性白血病:未熟な芽球が骨髄で増え、血液中に出てくる。骨髄が腫瘍細胞で占められて正常な血液がつくれなくなり、貧血、血小板減少、好中球減少が急速に進む。骨髄性とリンパ球性がある
- 慢性白血病:見た目は成熟した細胞がゆっくり増える。犬の慢性リンパ球性白血病では、血液中の小型の成熟したリンパ球が著しく増える。高齢犬に多く、症状がないまま血液検査で見つかることもある
血液像で未熟な芽球が増えていれば急性、成熟した細胞が増えていれば慢性と考えます。急性は骨髄が早く機能を失うため、貧血や出血などの症状が目立ちます。
4. 形質細胞の腫瘍
4-1. 多発性骨髄腫
骨髄で腫瘍化した形質細胞が増える腫瘍で、次の特徴があります。
- Mタンパク:腫瘍細胞は1種類のクローンなので、1種類の免疫グロブリンだけを大量につくる。血清タンパクの電気泳動で、γグロブリンの位置に幅の狭い鋭い山(単クローン性の山)が現れる
- ベンス・ジョーンズタンパク:免疫グロブリンの軽鎖が尿に出てくる
- 骨の病変:骨を溶かして、X線で打ち抜いたような透亮像をつくる。高カルシウム血症の原因になる
- そのほか:過粘稠症候群、腎臓の障害、感染しやすくなる(正常な抗体がつくられにくい)
4-2. 髄外性形質細胞腫
皮膚や口腔などにできる形質細胞の腫瘍で、多くは局所にとどまる経過をたどります。
4-3. ラッセル小体
形質細胞の中に、つくられた免疫グロブリンがたまってできる、丸く好酸性の封入体です。形質細胞の目印として問われます。
5. 牛のリンパ腫
牛のリンパ腫は、ウイルスが関わるものとそうでないものに分けられます。
- 地方病型(成牛型):牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)による。届出伝染病の「牛伝染性リンパ腫」にあたる。多くの牛は感染しても発症しないまま持続感染し、一部が数年を経てB細胞のリンパ腫を発症する。体表のリンパ節の腫大、眼窩の奥の腫瘤による眼球の突出、第四胃や心臓(右心房)の腫瘤、脊柱管の腫瘤による後肢の麻痺などを起こす
- 散発型:BLVとは関係なく起こる。子牛に全身のリンパ節が腫れる子牛型、若い牛の胸腺型、皮膚に病変をつくる皮膚型がある
BLVは、感染した牛のリンパ球を含む血液によって広がります。吸血昆虫、注射針や器具の使い回し、直腸検査の手袋の使い回しなどが感染の経路になり、乳汁を介した子牛への感染もあります。
6. 造血系の腫瘍で国家試験に狙われるポイント
- リンパ腫と白血病:リンパ節などの固形の腫瘤か、骨髄と血液か
- 犬のリンパ腫:多中心型が最多、B細胞性が多い。縦隔型はT細胞性が多く高カルシウム血症
- 猫のリンパ腫:高齢猫の消化器型が最多。若い猫の縦隔型はFeLVに関連
- 細胞診:大型で未熟なリンパ球が大部分を占める
- 病期:I〜V期と、全身症状の有無(a・b)
- 白血病:急性は未熟な芽球と骨髄の機能の喪失、慢性は成熟した細胞のゆっくりした増加
- 多発性骨髄腫:Mタンパク(単クローン性の山)、ベンス・ジョーンズタンパク(軽鎖)、打ち抜き像、高カルシウム血症、過粘稠症候群
- 牛のリンパ腫:地方病型はBLVによるB細胞のリンパ腫(届出伝染病)、散発型は子牛型・胸腺型・皮膚型
7. 造血系の腫瘍の確認問題
Q1. 犬で最も多いリンパ腫の型と、その特徴を述べよ。
A. 多中心型。全身の体表リンパ節が、痛みを伴わずに左右対称に大きくなる。中高齢の犬に多い。
Q2. 犬のリンパ腫で高カルシウム血症を伴いやすい型と免疫表現型を答えよ。
A. 縦隔型で、T細胞性のもの。腫瘍が上皮小体ホルモン関連タンパク(PTHrP)をつくることで高カルシウム血症が起こる。
Q3. 急性白血病で貧血・血小板減少・好中球減少が急速に進む理由を述べよ。
A. 骨髄が未熟な腫瘍細胞(芽球)で占められ、正常な赤血球・血小板・好中球がつくれなくなるため。
Q4. 多発性骨髄腫で、血清タンパクの電気泳動に幅の狭い鋭い山が現れる理由を述べよ。
A. 腫瘍化した形質細胞は1つのクローンに由来し、1種類の免疫グロブリン(Mタンパク)だけを大量につくるため、同じ位置に集中した単クローン性の山になる。
Q5. 牛のリンパ腫のうち、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)が関わる型と、関わらない型をそれぞれ答えよ。
A. BLVが関わるのは地方病型(成牛型)で、B細胞のリンパ腫になる。BLVが関わらないのは散発型で、子牛型、胸腺型、皮膚型がある。
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参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)