臨床獣医学 > 麻酔 > 鎮痛と局所麻酔
痛みを止める薬は、国家試験で繰り返し出題されています。オピオイドはどの受容体に、どれだけ強く作用するか、局所麻酔薬はどの神経に、どんな条件で効きやすいかが問われます。
本記事では、痛みが伝わる道筋のどこで薬が働くかを軸に、オピオイド、局所麻酔薬と神経ブロック、NSAIDを整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- オピオイド:フェンタニル、ブプレノルフィンとブトルファノールの受容体の違い
- 局所麻酔薬:休止中の神経より活動中の神経で作用が強くなる性質
- 硬膜外麻酔と神経ブロック:犬の硬膜外麻酔の部位(L7–S1)、腕神経叢ブロックが効く範囲
- オピオイドを完全作動薬・部分作動薬・作動-拮抗薬に分けること
- ブプレノルフィンはμの部分作動薬、ブトルファノールはκ作動・μ拮抗薬であること
- 局所麻酔薬がNaチャネルを遮断し、よく興奮する神経と細い神経に効きやすいこと
- 炎症のある組織で局所麻酔薬が効きにくい理由
- 硬膜外麻酔の部位(犬 L7–S1、牛は尾椎の間)と、代表的な神経ブロック
- NSAIDのCOX阻害と、猫で中毒を起こしやすい理由
1. 痛みが伝わる道筋と薬の働く場所
- 痛みの受容:傷ついた組織でつくられるプロスタグランジンなどが、神経の末端を痛みに敏感にする → NSAIDが働く
- 神経での伝導:痛みの信号が末梢神経を伝わる → 局所麻酔薬が働く
- 脊髄での中継と脳での知覚:信号が脊髄で中継され、脳で痛みとして感じられる → オピオイド、α2作動薬、ケタミンが働く
働く場所の違う薬を組み合わせると、少ない量で強い鎮痛が得られます。
2. オピオイド
2-1. 受容体と作用
オピオイドは、脳と脊髄のオピオイド受容体(主にμとκ)に作用して痛みの伝わりを抑えます。μ受容体は最も強い鎮痛を担い、呼吸の抑制などの副作用も担います。
- 完全作動薬(フェンタニル、モルヒネ、メサドン):μ受容体を最大限に刺激する。最も強い鎮痛が得られ、量を増やすほど効く。呼吸の抑制、徐脈、嘔吐(モルヒネ)が起こる。瞳孔は犬で縮み、猫で開く
- 部分作動薬(ブプレノルフィン):μ受容体を部分的に刺激する。受容体に強く結合して長く効くが、量を増やしても効果に上限(天井効果)がある。中程度の痛みに向く
- 作動-拮抗薬(ブトルファノール):κ受容体を刺激し、μ受容体を遮断する。鎮痛は弱く短いが、鎮静や咳を止める作用がある。μ受容体を遮断するため、完全作動薬の効果を弱めてしまう
名前が似ていますが、ブプレノルフィンはμの部分作動薬、ブトルファノールはκ作動・μ拮抗薬です。「ブプレノルフィンはκ受容体作動性である」は誤りとして問われています。
2-2. 拮抗薬と取り扱い
オピオイドの作用はナロキソンで拮抗できます。フェンタニルやモルヒネは麻薬として法律で管理され、保管や記録の方法が定められています。
3. 局所麻酔薬
3-1. 作用のしくみ
局所麻酔薬は、神経の電位依存性Naチャネルを内側からふさぎ、活動電位が起こらないようにして、痛みの信号の伝導を止めます。
- よく興奮している神経ほど効きやすい(使用依存性):局所麻酔薬は、チャネルが開いたり不活性化したりしている状態に結合しやすい。そのため、休んでいる神経より、盛んに興奮している神経で作用が強くなる
- 細い神経線維から先に効く:細い痛覚や自律神経の線維が先に遮断され、触覚、運動の線維の順に遮断される
- 炎症のある組織では効きにくい:局所麻酔薬は、電荷をもたない形で神経の膜を通り抜けて内側に入る。炎症のある組織は酸性に傾いており、電荷をもつ形が増えて膜を通りにくくなるため、効きにくい
3-2. 種類と注意点
- リドカイン:すぐ効き、中程度の時間効く。抗不整脈薬としても使われる
- ブピバカイン:長く効く。心臓への毒性が強いため、静脈に入れてはいけない
- 中毒:血中の濃度が高くなると、まずけいれんなどの中枢神経の症状、続いて心臓と血管の抑制が起こる。猫は感受性が高い
4. 硬膜外麻酔と神経ブロック
- 犬と猫の硬膜外麻酔:腰仙椎間(L7–S1)から硬膜の外側に注入し、後肢や会陰、腹部の後ろ側の痛みを止める
- 牛の尾椎の硬膜外麻酔:仙骨と第1尾椎の間、または第1・第2尾椎の間から注入する。立ったまま会陰部や尾の周りの処置ができる。注入量が多すぎて麻酔が頭側に広がると後肢が麻痺して倒れる
- 牛の傍腰椎神経ブロック:第13胸神経と第1・第2腰神経を、椎骨の近くでブロックする。立ったまま腹壁(けん部)を切開できるため、第四胃変位などの立位の開腹に使われる
- 牛の角神経ブロック:角の感覚を担う神経をブロックし、除角の痛みを止める
- 腕神経叢ブロック:腋の下の腕神経叢に注入し、肘より先の前肢の痛みを止める。肩の周りや肩甲骨には効かないため、肩甲骨を含む前肢の切断には不十分である
5. NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)
- 作用:シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジンをつくらせず、炎症と痛みと発熱を抑える。炎症で増えるCOX-2を選んで阻害する薬が多く使われる
- 副作用:胃の粘膜を守るプロスタグランジンも減るため胃腸の潰瘍、腎臓の血流を保つプロスタグランジンも減るため腎障害(脱水や低血圧のときにとくに危険)が起こる
- 猫:肝臓のグルクロン酸抱合の働きが弱く、NSAIDが体に残りやすいため中毒を起こしやすい。アセトアミノフェンは猫に使ってはいけない
6. 鎮痛と局所麻酔で国家試験に狙われるポイント
- 完全作動薬(フェンタニル、モルヒネ):μ受容体、最も強い鎮痛、呼吸の抑制、麻薬として管理
- 部分作動薬(ブプレノルフィン):μ受容体、長く効くが天井効果がある
- 作動-拮抗薬(ブトルファノール):κ作動・μ拮抗、弱く短い鎮痛、鎮静と鎮咳
- 拮抗薬:ナロキソン
- 局所麻酔薬:Naチャネルの遮断、活動中の神経で強く効く、細い線維から効く、炎症組織(酸性)で効きにくい
- 硬膜外麻酔:犬と猫は腰仙椎間(L7–S1)、牛は仙骨と第1尾椎の間など
- 神経ブロック:牛の傍腰椎神経ブロック(立位の開腹)、腕神経叢ブロック(肘より先、肩甲骨には効かない)
- NSAID:COX阻害。胃腸の潰瘍と腎障害。猫はグルクロン酸抱合が弱い
7. 鎮痛と局所麻酔の確認問題
Q1. ブプレノルフィンとブトルファノールの受容体への作用の違いを述べよ。
A. ブプレノルフィンはμ受容体の部分作動薬である。ブトルファノールはκ受容体を刺激し、μ受容体を遮断する作動-拮抗薬である。
Q2. 局所麻酔薬が、休止中の神経より活動中の神経で強く作用する理由を述べよ。
A. 局所麻酔薬はNaチャネルが開いたり不活性化したりしている状態に結合しやすいため、盛んに興奮してチャネルがよく開閉している神経ほど遮断されやすいから(使用依存性)。
Q3. 炎症を起こした組織で局所麻酔薬が効きにくい理由を述べよ。
A. 局所麻酔薬は電荷をもたない形で神経の膜を通り抜けるが、炎症のある組織は酸性に傾いており、電荷をもつ形が増えて膜を通りにくくなるため。
Q4. 犬の硬膜外麻酔を行う部位と、牛で立ったまま腹壁を切開するために用いる神経ブロックを答えよ。
A. 犬の硬膜外麻酔は腰仙椎間(L7–S1)から行う。牛では第13胸神経と第1・第2腰神経をブロックする傍腰椎神経ブロックを用いる。
Q5. NSAIDで胃腸の潰瘍と腎障害が起こる理由を述べよ。
A. NSAIDはシクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジンをつくらせないが、プロスタグランジンは胃の粘膜を守り、腎臓の血流を保つ働きもしているため、それが失われて胃腸の潰瘍と腎障害が起こる。
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理解度チェック
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参考文献
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)