伝染病学 > 人獣共通のウイルス感染症
人と動物のあいだでうつる感染症(人獣共通感染症)のうち、ウイルスによるものは、国家試験で必須問題から学説試験まで幅広く出題されています。とくに日本脳炎は、過去5回すべてで選択肢に登場しています。
病名がたくさんあって覚えにくい分野ですが、「どうやって人にうつるか(蚊・マダニ・コウモリ・げっ歯類・食べ物)」で分けると、関わる動物と対策が一緒に整理できます。本記事はこの分け方でまとめました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 日本脳炎:原因ウイルスの科、豚の役割、蚊による伝播(選択肢を含めて12問、5回すべて)
- SFTS・エムポックス:媒介するもの、動物から人への感染
- SARS・エボラ出血熱・マールブルグ病:自然宿主、感染症法の類型
- 増幅動物と終末宿主の違い(日本脳炎の豚と人・馬)
- SFTSがマダニと、発症した猫や犬からうつること
- コウモリが自然宿主の感染症と、人との間に入る動物
- げっ歯類や食べ物からうつる感染症
- それぞれの感染症法の類型
1. 蚊が運ぶ感染症
1-1. 日本脳炎
- 原因:フラビウイルス科の日本脳炎ウイルス
- 運ぶ蚊:主にコガタアカイエカ。水田などで発生し、夏から秋に多い
- 豚の役割:豚はウイルスに感染すると、血液中でウイルスが大量に増える。その豚の血を吸った蚊がウイルスをもち、人や馬を刺してうつす。このように、ウイルスを増やして広げる動物を増幅動物という。豚自身は、妊娠していると死産やミイラ化した胎子を起こす
- 人と馬:感染しても血液中のウイルスが少なく、蚊にうつせない(終末宿主)。人は多くが症状なく終わるが、発症すると脳炎を起こし、命にかかわったり後遺症が残ったりする
- 法律:人では感染症法の4類感染症。動物では家畜伝染病の「流行性脳炎」にあたる
増幅動物は、体の中でウイルスを大量に増やして、蚊などに次々と渡す動物です(日本脳炎の豚、ウエストナイル熱の鳥)。終末宿主は、感染しても次にうつさない、流行の行き止まりになる動物です(日本脳炎の人と馬)。流行を抑えるには、増幅動物と蚊への対策が重要になります。
1-2. ウエストナイル熱
- 原因:フラビウイルス科のウエストナイルウイルス
- 増幅動物:鳥。カラスなどの野鳥が大量に死ぬことがある
- 人と馬:終末宿主。発熱や、重い場合は脳炎を起こす
- 国内の状況:日本国内での流行は確認されていないが、海外での流行が続いており、侵入への警戒が続けられている
- 法律:人では4類感染症。獣医師は、鳥のウエストナイル熱を診断したら届け出る(感染症に関わる法規の解説)
2. マダニが運ぶ感染症 — 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- 原因:ブニヤウイルス目のSFTSウイルス
- うつり方:ウイルスをもつマダニに咬まれてうつる。さらに、発症した猫や犬の唾液や血液などから、人(飼い主や獣医療の従事者)にうつった例が報告されている
- 人の症状:発熱、嘔吐や下痢、血小板と白血球の減少。命にかかわることのある病気
- 猫と犬:猫は発症すると重く、発熱、元気の消失、黄疸、血小板の減少を示し、死亡することが多い。犬も発症する
- 法律:人では4類感染症。獣医師の届出の対象ではない
SFTSが疑われる猫や犬を診るときは、手袋やガウン、マスク、目の防護などで体液に直接触れないようにします。動物から人にうつりうる感染症では、獣医療の従事者自身が感染の危険にさらされます。
3. コウモリが元の持ち主の感染症
コウモリは、症状を出さずに多くのウイルスをもっている自然宿主です。コウモリから直接、あるいはほかの動物を間に挟んで人にうつります。
- エボラ出血熱、マールブルグ病(フィロウイルス科):自然宿主はオオコウモリの仲間と考えられている。サルも人と同じように発症して死亡する。発熱、出血などの重い症状を起こす。人では1類感染症。獣医師はサルのこれらの病気を診断したら届け出る
- 重症急性呼吸器症候群(SARS)(コロナウイルス科):コウモリがもっていたウイルスが、ハクビシンなどを介して人にうつったと考えられている。人では2類感染症
- 中東呼吸器症候群(MERS)(コロナウイルス科):ヒトコブラクダから人にうつる。人では2類感染症
- ニパウイルス感染症(パラミクソウイルス科):オオコウモリから豚を介して人に広がり、脳炎を起こした流行がある。人では4類感染症
- ヘンドラウイルス感染症(パラミクソウイルス科):オオコウモリから馬を介して人にうつる。人では4類感染症
- 狂犬病(ラブドウイルス科):コウモリも自然宿主の一つ(狂犬病の解説)
こうした病気を防ぐため、コウモリ、ハクビシン、タヌキ、イタチアナグマなどは、感染症法で輸入が禁止されています。
4. げっ歯類や食べ物からうつる感染症
4-1. げっ歯類
- エムポックス(ポックスウイルス科、以前の名前はサル痘):アフリカのげっ歯類などがもつウイルスが人にうつる。人から人へも、皮膚や体液への密接な接触でうつり、世界的に広がった。発熱、リンパ節の腫れ、皮膚の発疹(水疱から膿疱、かさぶたへ)を起こす。人では4類感染症
- ハンタウイルス感染症(ブニヤウイルス目):ネズミの尿や糞がまじったほこりを吸い込んでうつる。腎臓の障害と出血を起こす型(腎症候性出血熱)と、肺の障害を起こす型がある。人では4類感染症
- ラッサ熱(アレナウイルス科):アフリカのネズミ(マストミス)がもつ。人では1類感染症
4-2. 食べ物 — E型肝炎
- 原因:E型肝炎ウイルス
- うつり方:豚、イノシシ、シカの肉やレバーを、生や加熱不足で食べてうつる。豚は感染しても症状を示さない
- 人の症状:急性の肝炎。多くは治るが、妊婦などでは重くなることがある。人では4類感染症
- 対策:豚やジビエの肉と内臓は、中心まで十分に加熱して食べる(食品衛生の法規と制度の解説)
5. 感染症法の類型のまとめ
- 1類感染症:エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱など(最も危険性が高い)
- 2類感染症:SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)など
- 4類感染症:日本脳炎、ウエストナイル熱、SFTS、エムポックス、ニパ・ヘンドラウイルス感染症、ハンタウイルス感染症、E型肝炎、狂犬病など(動物や飲食物を介してうつる感染症)
獣医師の届出の対象となる感染症と動物の組み合わせは、感染症に関わる法規の解説で扱っています。高病原性鳥インフルエンザの鶏での特徴は鶏の主要な感染症の解説をご覧ください。
6. 人獣共通のウイルス感染症で国家試験に狙われるポイント
- 日本脳炎:フラビ、コガタアカイエカ、豚が増幅動物、人と馬は終末宿主、豚の死産、4類
- ウエストナイル熱:フラビ、蚊、鳥が増幅動物、人と馬は終末宿主、国内での流行はない、4類
- SFTS:ブニヤウイルス目、マダニ、発症した猫や犬からもうつる、血小板と白血球の減少、4類、獣医師の届出の対象外
- コウモリが自然宿主:エボラ・マールブルグ(サルも発症、1類)、SARS(ハクビシン、2類)、MERS(ヒトコブラクダ、2類)、ニパ(豚)、ヘンドラ(馬)
- げっ歯類:エムポックス、ハンタウイルス感染症、ラッサ熱(1類)
- E型肝炎:豚・イノシシ・シカの生肉やレバー、豚は症状なし、4類
7. 人獣共通のウイルス感染症の確認問題
Q1. 日本脳炎で、豚が「増幅動物」、人と馬が「終末宿主」と呼ばれる理由を述べよ。
A. 豚は感染すると血液中でウイルスが大量に増え、その血を吸った蚊がウイルスを広げるため増幅動物と呼ばれる。人と馬は血液中のウイルスが少なく蚊にうつせないため、流行の行き止まりとなる終末宿主と呼ばれる。
Q2. 日本脳炎ウイルスを主に運ぶ蚊と、ウイルスの科を答えよ。
A. コガタアカイエカ。フラビウイルス科。
Q3. SFTSが人にうつる経路を2つ挙げよ。
A. ウイルスをもつマダニに咬まれること、発症した猫や犬の唾液や血液などの体液に触れること。
Q4. MERSとSARSで、人にうつる前に関わったとされる動物をそれぞれ答えよ。
A. MERSはヒトコブラクダ、SARSはハクビシン(どちらも、もとはコウモリがもつウイルスと考えられている)。
Q5. E型肝炎を防ぐために、食べ物で注意すべきことを述べよ。
A. 豚、イノシシ、シカの肉やレバーを生や加熱不足で食べず、中心まで十分に加熱すること。
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- 流れでたどる:狂犬病ウイルスの旅 — かみ傷から脳、そして次の動物へ、狂犬病ウイルスの旅を図で確認できます。
- 感染症に関わる法規 — 感染症法の獣医師の届出と、輸入が禁止されている動物を扱います。
- 狂犬病 — 代表的な人獣共通のウイルス感染症を扱います。
- 人獣共通寄生虫 — 寄生虫による人獣共通感染症を扱います。
参考文献
- 獣医伝染病学 近代出版
- 獣医公衆衛生学 文永堂出版
- 動物の感染症 近代出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)