麻酔のモニタリングと合併症|【獣医師国家試験対策】

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麻酔中は、呼吸と循環が薬で抑えられた状態が続きます。国家試験では、どの値が何を表すか、とくに酸素化と換気の区別が問われ、実地試験では麻酔器の部品や、麻酔に伴う事故の画像も出題されています。

本記事では、「麻酔中に何を見れば、どの危険に気づけるか」という流れで、モニタリング、麻酔の深さ、麻酔器、術前の評価、合併症を整理しました。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が問われています。

  • モニタリング:換気の指標としてのPaCO₂
  • 麻酔器:二酸化炭素吸収装置
  • 合併症:気管チューブによる気道の損傷、食道への誤挿管
この記事で押さえること
  • SpO₂は酸素化、EtCO₂とPaCO₂は換気の指標であること
  • EtCO₂が上がる・ゼロになるときに考えること
  • 麻酔の深さを判断する反射と眼の位置
  • 再呼吸回路と二酸化炭素吸収装置の役割
  • 術前のASA分類
  • 低血圧・低体温・誤挿管・気道の損傷・悪性高熱症が起こるしくみ

1. 酸素化と換気を区別する

  • SpO₂(パルスオキシメーター):動脈血のヘモグロビンのうち、酸素と結びついている割合。酸素化(血液にきちんと酸素が入っているか)の指標。おおむね95%以上を保つ
  • PaCO₂(動脈血の二酸化炭素分圧):体でできた二酸化炭素が、呼吸でどれだけ吐き出されているか。換気の最も確かな指標。上がっていれば換気が足りない(低換気)
  • EtCO₂(カプノグラフィ):吐いた息の終わりの二酸化炭素の濃度。PaCO₂に近い値を示すため、換気を連続して見るのに使う。おおむね35〜45mmHg
酸素を吸っていると、換気不足はSpO₂に出にくい

麻酔中は高い濃度の酸素を吸わせているため、呼吸が浅くなってもSpO₂はなかなか下がりません。換気の不足はEtCO₂やPaCO₂の上昇で気づきます。「SpO₂が正常だから換気も十分」とはいえない点が大切です。

1-1. EtCO₂の変化から考えること

  • 上がる:低換気、二酸化炭素吸収装置の消耗による再呼吸、悪性高熱症
  • ゼロになる・波形が出ない:食道への誤挿管、回路の外れ、気管チューブの閉塞、心停止(肺に血液が届かない)

食道に誤って挿管すると、肺に空気が届かずSpO₂が下がり、EtCO₂はほとんど検出されません。

2. 麻酔の深さ

  • 眼瞼反射:まぶたの縁に触れると瞬きする反射。適切な深さでは弱まるか消える
  • 眼球の位置:犬と猫では、適切な深さで眼球が腹内側へ回転する。深くなりすぎると眼球は中央に戻り、瞳孔が開く
  • 顎の緊張:浅いと口を開けようとすると抵抗がある
  • 角膜反射:かなり深い麻酔まで残る。これが消えていれば深すぎる
  • 呼吸・心拍・血圧:手術の刺激で急に上がれば浅い。下がり続ければ深すぎる

ケタミンでは、眼を開けたまま反射が残るため、これらの指標がそのまま使えない点に注意します。

3. 麻酔器と回路

  • 再呼吸回路(循環式回路):吐いた息を回路の中で循環させ、もう一度吸わせる。新しいガスの量が少なくて済む。吐いた息の二酸化炭素は二酸化炭素吸収装置の吸収剤(ソーダライムなど)で取り除く。吸収剤は二酸化炭素を吸収すると色が変わり、消耗がわかる
  • 非再呼吸回路:新しいガスを多く流し、吐いた息を回路の外へ流し出す。回路の抵抗が小さいため、小さな動物に使う

吸収剤が消耗すると、吐いた二酸化炭素をもう一度吸い込み、EtCO₂が吸気のときにもゼロに戻らなくなります。

4. 術前の評価 — ASA分類

  • クラス1:健康な動物
  • クラス2:軽い全身の病気がある
  • クラス3:重い全身の病気がある
  • クラス4:命にかかわる全身の病気がある
  • クラス5:手術をしなければ24時間は生きられないと考えられる

緊急の手術には「E」をつけます。クラスが上がるほど、麻酔の危険が高くなります。

5. 合併症とそのしくみ

  • 低血圧:吸入麻酔薬が血管を広げ、心臓の収縮を弱めるため。平均血圧が低すぎると腎臓などの臓器に血液が届かなくなる
  • 低換気:麻酔薬やオピオイドが呼吸を抑えるため。PaCO₂とEtCO₂が上がる
  • 低体温:麻酔薬が体温を調節するしくみを抑え、毛を刈った皮膚や開いた体腔から熱が逃げるため。体が小さいほど早く冷え、覚醒が遅れる
  • 食道への誤挿管:SpO₂が下がり、EtCO₂が検出されない
  • 気管チューブによる気道の損傷:カフの膨らませすぎや、チューブをつけたまま体の向きを変えることで気管が裂ける。とくに猫で起こりやすく、首や胸の皮膚の下に空気がたまる(皮下気腫)
  • 悪性高熱症:豚(豚ストレス症候群)などで、筋の細胞の中のカルシウムを放出するチャネル(リアノジン受容体)の遺伝子に変異があると、吸入麻酔薬などをきっかけに筋の中へカルシウムが過剰に放出される。筋が硬直し、体温とEtCO₂が急に上がり、アシドーシスと高カリウム血症が起こる。ダントロレンは、このカルシウムの放出を抑える薬である

6. 麻酔のモニタリングで国家試験に狙われるポイント

  • 酸素化はSpO₂、換気はPaCO₂(連続して見るならEtCO₂)
  • EtCO₂の上昇:低換気、吸収剤の消耗、悪性高熱症。ゼロ:誤挿管、回路の外れ、心停止
  • 麻酔の深さ:眼瞼反射、眼球の腹内側への回転(深すぎると中央に戻り散瞳)、顎の緊張
  • 回路:再呼吸回路は二酸化炭素吸収装置(色で消耗がわかる)、小さな動物は非再呼吸回路
  • ASA分類:クラス1〜5と、緊急の「E」
  • 合併症:低血圧、低換気、低体温(小さい動物ほど早い)、誤挿管、猫の気管の損傷、豚の悪性高熱症(リアノジン受容体)

7. 麻酔のモニタリングの確認問題

Q1. 麻酔中の換気の指標として最も確かなものは何か。SpO₂が換気の評価に向かない理由とあわせて述べよ。

A. 動脈血の二酸化炭素分圧(PaCO₂)。麻酔中は高い濃度の酸素を吸わせているため、呼吸が浅くなってもSpO₂はなかなか下がらず、換気の不足をとらえにくいから。

Q2. 気管挿管のあと、SpO₂が下がり、カプノグラフでEtCO₂がほとんど検出されなかった。最も疑うべき原因は何か。

A. 食道への誤挿管。肺に空気が届かないため酸素化が落ち、吐いた息に二酸化炭素が含まれない。

Q3. 再呼吸回路で、二酸化炭素吸収装置の吸収剤が消耗したときに起こることを述べよ。

A. 吐いた息の二酸化炭素が取り除かれずにもう一度吸い込まれ、EtCO₂が吸気のときにもゼロに戻らなくなり、高二酸化炭素血症になる。吸収剤の色の変化で消耗がわかる。

Q4. 犬や猫で、麻酔が深くなりすぎたときの眼の変化を述べよ。

A. 適切な深さでは腹内側へ回転していた眼球が中央に戻り、瞳孔が開く。角膜反射も消える。

Q5. 豚の悪性高熱症が起こるしくみを述べよ。

A. 筋の細胞の中のカルシウムを放出するチャネル(リアノジン受容体)の遺伝子に変異があると、吸入麻酔薬などをきっかけに筋の中へカルシウムが過剰に放出され、筋が硬直して熱と二酸化炭素が大量につくられ、体温とEtCO₂が急に上がる。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月29日/最終更新日:2026年9月29日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。