臨床獣医学 > 内科 > 内分泌・代謝 > 牛の周産期の代謝病
乳牛は、分娩をきっかけに、毎日大量の乳をつくり始めます。乳にはカルシウムとエネルギーがたくさん含まれているため、分娩前後の数週間(移行期)は、体に入る量より出ていく量が一気に上回ります。この時期に起こるのが、乳熱、ケトーシス、脂肪肝といった周産期の代謝病です。
本記事では、「カルシウムが足りなくなる」「エネルギーが足りなくなる」の2つの流れで代謝病を整理し、それらがほかの病気へどうつながっていくかをまとめました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- エネルギー不足:乾乳期・分娩後のエネルギー不足で上がる血液の項目(遊離脂肪酸)、ケトーシス、脂肪肝
- カルシウム不足:分娩前後の低カルシウム血症と、それに続く病気
- 周辺の病気:第四胃変位、第一胃アシドーシス、胎盤停滞、乳房炎との関連
- 移行期にカルシウムとエネルギーが足りなくなる理由
- 乳熱が分娩直後の経産牛に起こるしくみと、体温が下がること
- ケトーシスで体の脂肪からケトン体ができる流れ
- 脂肪肝が太りすぎた牛で起こる理由
- ダウナー症候群で、カルシウムを補っても立てない理由
- 代謝病が第四胃変位・胎盤停滞・乳房炎へつながる流れ
1. 移行期に何が起きているか
- カルシウム:分娩すると、初乳に大量のカルシウムが出ていく。骨から溶かし出したり腸から吸収したりする力(上皮小体ホルモンと活性型ビタミンDの働き)が、急な需要にすぐには追いつかない
- エネルギー:乳量はどんどん増えるのに、分娩前後の牛は食べる量が落ちる。足りないエネルギーを補うため、体に蓄えた脂肪を分解して使う(負のエネルギーバランス)
カルシウム不足の代表が乳熱、エネルギー不足の代表がケトーシスと脂肪肝です。
2. 乳熱(分娩性低カルシウム血症)
2-1. どんな牛に、いつ起こるか
分娩の直後(おおむね3日以内)の、経産の高泌乳牛に多く起こります。年齢が上がるほど、骨や腸からカルシウムを動かす力が落ちるため、起こりやすくなります。初めて分娩する牛にはまれです。
2-2. 症状の進み方
- 第1期:興奮、耳や筋肉の震え、ふらつき
- 第2期:立てなくなり、首をわき腹のほうへ曲げて伏せる。目がうつろになる
- 第3期:横に倒れて意識がなくなり、治療しなければ死亡する
カルシウムは筋肉が縮むのに欠かせないため、足りなくなると筋肉が弱り、心臓の動きや第一胃の動きも弱まります。
名前に「熱」とありますが、乳熱では体温は下がり、耳や四肢が冷たくなります。「分娩後の高熱」を選ばせる選択肢は誤りです。
2-3. 予防の考え方
分娩の前に、カリウムの多い飼料を控えるなどして血液をわずかに酸性に傾けると、上皮小体ホルモンが働きやすくなり、分娩時にカルシウムを動かす準備が整います。分娩前の飼料の中の陽イオンと陰イオンのバランスを調整する方法として知られています。
2-4. ほかのミネラルの不足 — グラステタニー
春の若い牧草を食べて放牧されている牛では、マグネシウムが不足するグラステタニー(低マグネシウム血症)が起こります。興奮やけいれんが突然起こり、急死することもあります。
3. ケトーシス
3-1. どう起こるか
- 分娩後、乳量が増えるのに食べる量が追いつかず、エネルギーが足りなくなる
- 体の脂肪が分解され、血液中の遊離脂肪酸(非エステル化脂肪酸)が増える
- 肝臓に運ばれた遊離脂肪酸を処理しきれず、ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)がつくられる
- 血液、尿、乳のケトン体が増え、血糖が下がる
3-2. 症状と検査
- 時期:分娩後の数週間、乳量が増えていく時期に多い
- 症状:食欲の低下(とくに濃厚飼料を食べなくなる)、乳量の低下、呼気や乳の甘いにおい(アセトンのにおい)。神経型では、物をなめ続ける、興奮するといった異常な行動がみられる
- 検査:血液のβ-ヒドロキシ酪酸、尿や乳のケトン体
第四胃変位や子宮内膜炎などで食欲が落ちて起こる二次性のケトーシスもあるため、背景の病気を必ず探します(内分泌・代謝疾患の分野別まとめ)。
4. 脂肪肝
- 起こりやすい牛:乾乳期に太りすぎた牛。太った牛は分娩前後の食欲の落ち込みが大きく、蓄えた脂肪も多いため、脂肪の分解が一気に進む
- しくみ:大量の遊離脂肪酸が肝臓に流れ込み、中性脂肪として肝細胞にたまる。牛は、肝臓から脂肪を血液に送り出す力がもともと弱いため、脂肪がたまりやすい
- 影響:肝臓の働きが落ち、ケトーシス、第四胃変位、乳房炎、繁殖の障害などが続けて起こりやすくなる
乾乳期に太らせすぎると、分娩前後に食欲が大きく落ち、脂肪の分解が一気に進んで、脂肪肝とケトーシスを招きます。代謝病の予防は、乾乳期の体の状態を適切に保つことから始まります。
5. ダウナー症候群(起立不能症候群)
乳熱などで長い時間横たわっていた牛では、体重で後肢の筋肉や神経が押しつぶされて傷みます。そのため、カルシウムを補って血液の値が戻っても、立ち上がれない状態が続きます。筋肉が壊れたしるしとして、血液のCK(クレアチンキナーゼ)が上がります。柔らかい床で、体の向きをこまめに変えることが大切です。
6. 代謝病がほかの病気へつながる流れ
- 乳熱 → 第四胃変位:カルシウム不足で胃の動きが弱まり、ガスがたまった第四胃が移動しやすくなる(牛の第四胃変位の解説)
- 乳熱 → 胎盤停滞・子宮脱:子宮の筋肉の張りが弱まる(牛の繁殖障害と周産期の異常の解説)
- 乳熱 → 乳房炎:乳頭の出口を閉じる筋肉がゆるみ、細菌が入りやすくなる(牛の泌乳と乳房炎の解説)
- エネルギー不足 → 繁殖の障害:卵巣の働きの再開が遅れ、次の妊娠が遅れる
- 分娩後の急な飼料の切り替え → 第一胃アシドーシス:濃厚飼料を急に増やすと、第一胃が酸性に傾く(牛の第一胃アシドーシスの解説)
このように、分娩前後の代謝病は1つが起こると次々に連鎖します。移行期の管理で、最初の1つを防ぐことが重要です。
7. 牛の周産期の代謝病で国家試験に狙われるポイント
- 移行期:分娩で乳へのカルシウムとエネルギーの流出が急増し、体の準備と食べる量が追いつかない
- 乳熱:分娩直後の経産の高泌乳牛、上皮小体ホルモンと活性型ビタミンDの立ち上がりの遅れ、首をわき腹へ曲げた伏臥、体温の低下、第一胃の動きの低下
- グラステタニー:放牧中の低マグネシウム血症、興奮とけいれん
- ケトーシス:分娩後数週、遊離脂肪酸の増加 → 肝臓でケトン体、低血糖、乳量低下、アセトン臭。二次性もある
- 脂肪肝:乾乳期の過肥、遊離脂肪酸が肝細胞に中性脂肪としてたまる、ほかの病気を招く
- ダウナー症候群:長時間の横臥による筋肉と神経の障害、カルシウムを補っても立てない、CKの上昇
- 連鎖:乳熱から第四胃変位・胎盤停滞・子宮脱・乳房炎へ
8. 牛の周産期の代謝病の確認問題
Q1. 乳熱が分娩直後の経産の高泌乳牛に起こりやすい理由を述べよ。
A. 分娩で初乳に大量のカルシウムが出ていくのに、骨からの溶出や腸からの吸収を高める上皮小体ホルモンと活性型ビタミンDの働きがすぐには追いつかないため。年齢が上がるほどこの力が落ちるため、経産牛に多い。
Q2. 乳熱の牛の体温はどうなるか。
A. 下がる。名前に反して熱は出ず、耳や四肢が冷たくなる。
Q3. 分娩後の乳牛でエネルギーが不足したとき、血液中で上昇する項目と、ケトン体ができる流れを述べよ。
A. 遊離脂肪酸(非エステル化脂肪酸)が上昇する。体の脂肪が分解されて遊離脂肪酸が肝臓に運ばれ、処理しきれない分からケトン体(β-ヒドロキシ酪酸など)がつくられる。
Q4. 脂肪肝が乾乳期に太りすぎた牛で起こりやすい理由を述べよ。
A. 太った牛は分娩前後に食欲が大きく落ち、蓄えた脂肪も多いため脂肪の分解が一気に進み、大量の遊離脂肪酸が肝臓に流れ込んで中性脂肪としてたまるから。牛はもともと肝臓から脂肪を送り出す力が弱い。
Q5. 乳熱の牛にカルシウムを補って血液の値が戻っても立てないことがある。その理由を述べよ。
A. 長い時間横たわっていたため、体重で後肢の筋肉や神経が押しつぶされて傷んでいるから(ダウナー症候群)。筋肉の傷みを反映して、血液のCKが上がる。
関連コンテンツ
詳細な解説
- 分野別まとめ:内分泌・代謝疾患 — 内分泌疾患の原理と、牛のケトーシスを含む代謝疾患の出題傾向を整理しています。
- 流れでたどる:カルシウムの調節 — PTHとビタミンDで血中Ca²⁺を保つしくみを、図をたどって確認できます。
- 流れでたどる:分娩の始まり — 胎子のコルチゾールからオキシトシンまで、分娩が始まる流れを図で確認できます。
- 流れでたどる:筋肉が縮むしくみ — Ca²⁺とクロスブリッジで筋が縮むしくみを、図をたどって確認できます。
- 流れでたどる:牛の第一胃の発酵 — 反芻から揮発性脂肪酸まで、第一胃の発酵を図で確認できます。
- 牛の第四胃変位(LDA・RDA) — 乳熱やケトーシスに続いて起こりやすい病気です。
- 牛の繁殖障害と周産期の異常 — 胎盤停滞や子宮脱など、分娩前後の異常を扱います。
- 牛の泌乳と乳房炎 — 泌乳のしくみと乾乳期を扱います。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 獣医繁殖学 文永堂出版
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)